不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

読書

最近読んだ本

保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』(ちくま文庫)。楯の会発足から、あの事件までを追ったノンフィクション。あくまで事件にフォーカスを当てているが、そこから漏れるように三島の真面目で繊細な性格が見えてくる。むろん切実な思いも。事件を点ではなく…

最近読んだ本

千葉雅也『勉強の哲学 来たるべきバカのために』(文藝春秋)。続篇が出たタイミングで読んでみた。勉強するとキモくなる、新しいノリを獲得する……といったカジュアルな言葉で語る勉強という哲学。自己啓発的な部分が乗れない時もあったけれど、刺激になった…

麻薬王は経営者

トム・ウェインライト『ハッパノミクス 麻薬カルテルの経済学』(みすず書房、千葉敏生訳)。時事ネタのタイトルとイカした装丁だが、それに負けず劣らず内容もおもしろい。麻薬カルテルはどういう組織で、どうやって儲けているのか。麻薬ビジネスとはどうい…

年末年始に読んだ本を箇条書きで

坪内祐三『右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない。』(幻戯書房)。シブい。著者がこれを書き残しておきたかった事がよくわかる。 荒木優太『貧しい出版者 政治と文学と紙の屑』(フィルム・アート社)。小林多喜二と埴谷雄高との比較文学論でこち…

やっぱり紙が好き

先日書いた通り、『風雲児たち』はiPadのKindleで読んだ。実は初めての電子書籍購入及び読書体験であった。50冊近く買っても場所をとらない、画面がキレイ、拡大できる、1Pずつにも見開きにもできる、価格が安い(変動する)……なるほど、長所は多い。特に漫…

最新刊は2月に出るそうです

元旦に放映された三谷幸喜脚本のドラマ『風雲児たち〜蘭学革命篇〜』がたいそうおもしろく、漫画をどうアレンジしたのかも気になったので、ドラマ原作となった「解体新書」篇だけ抜粋されたコミックを読んだらそれもまたおもしろく、だったら全編おもしろい…

最近読んだ本

春日武彦・平山夢明『サイコパス解剖学』(洋泉社)。二人の対談本三冊目、テーマは「サイコパス」。話題の本から人物、事件まで言いたい放題だが、暴言・放言になっていないのは実際に会ったり見たり聞いたりした経験と確かな知識が基盤になっているから。…

バンドやってません

イアン・F・マーティン『バンドやめようぜ! あるイギリス人のディープな現代日本ポップ・ロック界探検記』(ele-king books、坂本麻里子訳)。日本在住のイギリス人から見た日本の音楽事情。ジャーナリズムを含めた音楽業界への疑義を、歯に衣着せず書きま…

Dear 青春のエスペランサ

金子達仁『プライド』(幻冬舎)。高田延彦と榊原信行の出会いからPRIDE.1のvsヒクソン・グレイシーが行われるまでの舞台裏ノンフィクション。関係者からの証言たっぷりで、なかなかの読み応え。中でもヒクソンの長時間インタビューと、安生洋二の言葉がいい…

黙殺するのは誰か

畠山理仁『黙殺 報じられない“無頼系独立候補"たちの戦い』(集英社)。開高健ノンフィクション賞受賞作で、結構期待していた一冊だったのだが……いやー、期待以上におもしろくて一気読みしてしまった。これを読めば選挙戦、選挙報道を見る目、そして自身の一…

最近読んだ新書

森本あんり『宗教国家アメリカのふしぎな論理』(NHK出版新書)。『反知性主義』(読んだけど、ここに感想書いてないな)の著者による、アメリカの奇妙な宗教観(というか、変節したキリスト教)からなる「富と成功」の福音主義と反知性主義など、アメリカの…

最近読んだプロレス本二冊

柳澤健『2011年の棚橋弘至と中邑真輔』(文藝春秋)。帯文通り二人のレスラーによる「プロレス再生の物語」。正確に言うなら「新日本プロレス」だけど。俺は一応は暗黒時代の新日も見続けてはいたので、ここで書かれている物語は「そうそう、そうだった」と…

記憶で生きて、記憶に殺される

キム・ヨンハ『殺人者の記憶法』(クオン、吉川凪訳)。150ページと薄めでテキスト量は少なく、正直「これで2000円越えか」と思ったけれど、映画の原作本かーと軽い気持ちで読みだしてみたら、これはちょっとすばらしい。今年ベストかもしれん。 認知症にな…

放題

Netflixに続き、dマガジンという定額雑誌読み放題サービスも始めた。別段雑誌好きではないのだが、『ニューズウィーク日本版』くらいは読んでいて、それを含めた190誌が月400円程度で読み放題になるのだからお得だ。読めるのなら読む雑誌はちょこちょこある…

裁きとは

マイクル・コナリー『罪責の神々』(講談社文庫、古沢嘉通訳)。新作のたびにおもしろさの到達点だけでなく、テーマや奥深さの飛距離も更新していく稀有なシリーズ「リンカーン弁護士」最新作は、やはり最高傑作にして集大成。訳者あとがきによると本作以降…

住むが繋がる

滝口悠生『高架線』(講談社)。次の入居者を自分で探す事が条件の格安アパートの一室をめぐる物語。それぞれがそれぞれの言葉で一つの事を語り、そうする事でそれぞれの違いが見えてくる。語りに身を任せる感じが心地よく、これはなかなかよい読書体験をし…

耳の謎

バーナデット・マーフィー『ゴッホの耳ー天才画家 最大の謎ー』(早川書房、山田美明訳)。「錯乱したゴッホが耳の一部を切って娼婦に手渡した」事件の真相とは。専門家でも作家でもない、元美術教師が徹底的に調べ上げて真実に極めて近い事実にたどり着き、…

最近読んだ本

深町秋生『地獄の犬たち』(角川書店)。読む前は「だっさいタイトルだな……」と思っていたのに読み終わってみれば「これしかない」と思う。『インファナル・アフェア』+『地獄の黙示録』に『ザ・ミッション』も加えた濃厚な物語で、あまりにおもしろくて一…

最近読んだ二冊

森達也『FAKEな平成史』(角川書店)。平成史と著者自身のドキュメンタリー制作史と並行させ、そのテーマに沿った人物にインタビュー(というよりも対話)していく一冊で、自粛と委縮に抗う様子がおもしろかった。意見が異なるところは多数あるけど著者の挑…

最近読んだ文学者本二冊

福田逸『父・福田恆存』(文藝春秋)。麗澤大学出版会の全集を持っているがほとんど読んでいないのに、この本を読むのもどうかと思いながら読んだ。身内の評伝というのは距離感がどうも苦手なのだが、本書は著者が年取ってから書いたのもあってか、わりとス…

このまま消滅する事はないじゃないか

ロジャー・ホッブス『ゴーストマン 消滅遊戯』(文藝春秋、田口俊樹訳)。待望の続編にして、おそらくは著者最後の長編は、前作と同じく時間制限付きのミッションでスリリングでありながら、犯罪のテイストはガラッと変わっており、スピーディな展開ととプロ…

今日もどこかで

ジョン・ロンソン『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(光文社新書、夏目大訳)。新書のわりにはかなり分厚いけど、分析や論ではなくあくまでルポ形式で、なかなかの筆捌きなのでグイグイと一気に読み進めた。Twitterで問題発言をしたり、仕事でや…

藪の中

『証言UWF 最後の真実』(宝島社)。何となく読むのが遅れてしまい、柳澤健『1984年のUWF』との比較をするほどの熱量もなかったので(前田やフミ斉藤などが『1984年のUWF』に反論している、という話などは知っている)、これはこれで単体として読んだ。副題…

装丁がいい

上田岳弘『塔と重力』(新潮社)。今作では時空間を飛ばず、SNSを使って自己と他者の垣根を融解させ、〈神ポジション〉というマクロな視点で描かれていておもしろかったけど、グーッと広がっていったものが、いざ目の前で起こった現実の一大事(生死)に簡単…

途中やんけ

沼田真佑『影裏』(文藝春秋)。芥川賞受賞作。どんな物語かも、選評がどうだったのかも知らず、何となく好きではないかと思って読んでみた。冷ややかな筆致、明確に事実を書かず時系列も少しだけズラして妙を生ませるなど、思った通りかなり好み。好みなん…

歌舞伎町もずいぶん変わった

馳星周『不夜城』『鎮魂歌』『長恨歌』(全て角川文庫)。VICEの「台湾人が歌舞伎町をつくった」や、先日お会いした人と「俺たちにとって『新宿鮫』や『不夜城』は特別な小説なんだよな」という話をして読みたくなり、三部作一気読みしたのだが、完結編の『…

ヴェールをめぐって

クリスチャン・ヨプケ『ヴェール論争: リベラリズムの試練』(法政大学出版局、伊藤豊他訳)。「欧州人権裁、顔全体を覆うベールの着用禁止を支持」というニュースを見て、家に積んである事を思い出したのでパラパラと読んでみた。学術論文みたいで、かなり…

おかしくて哀しい

日本のでも海外のでもあまりドラマを見る事がないんだけど(途中で飽きてしまうか、DVDをレンタルするのが億劫になる)、Netflixにもドラマは結構入っていて、どれか見てみようと思っていたところ、『FARGO/ファーゴ』があった。コーエン兄弟の作品から着想…

釘とモアイ

パク・ミンギュ『ピンポン』(白水社、斎藤真理子訳)。おかしな小説『カステラ』のパク・ミンギュの長編小説。過剰な人間たちが突飛な物語を歩くが、彼らの気持ちや感情は切実。いじめられっ子が何故自分はこうなのかを問うて辿り着く世界の仕組みや人類の…

最近読んだ小説

長嶋有『もう生まれたくない』(講談社)。随所に訃報が出てくる群像劇。不意打ちのような訃報は死生観とは言わないけれど生活に静かな波を立たせ、過去から現在という時の流れに補助線を引いて見直しをさせる。死の喪失感や宗教的救済ではない、いかにも長…