不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

麻薬王は経営者

 トム・ウェインライト『ハッパノミクス 麻薬カルテルの経済学』(みすず書房、千葉敏生訳)。時事ネタのタイトルとイカした装丁だが、それに負けず劣らず内容もおもしろい。麻薬カルテルはどういう組織で、どうやって儲けているのか。麻薬ビジネスとはどういう構造なのか。いま何がトレンドなのか。この業界(というかなんちゅうか)の未来は果たして……危険な取材と調査で明らかにしていく。
 麻薬を扱いながらも、M&Aだのオフシェアリングだのサプライチェーン管理だの、いわゆる会社経営で出てくる概念や経営方針と同じような事を行っている。笑ってしまったのは人材確保の話。そもそもやっている事が違法だから契約(=法律)で人や働き方を縛る事ができず、残念ながらバカが多いのでミスも多く(しかしミスをしたからといって映画やドラマのように殺される事はほとんどないらしい)、優秀でも殺されたりするので、確保がとにかく難しいという。あとネット通販の場合、たとえ麻薬でも通常の商品となんら変わらない状況なのがおもしろい。ユーザーレビューで「発送が早く、質もよかったです」とコメントが寄せられる事もあるそうだ。さらにバイヤーとユーザーが直接やり取りできるようになったため、仲立ちの売人たちの商売が上がったりだとか。他の業界、たとえば出版の取次とかと状況は同じだな。
 麻薬ビジネスを経済の観点から見る事で、より現実的に麻薬の状況を把握できるのはコロンブスの卵ではある。この文脈から米国内の大麻合法化へと繋がっていくのも頷ける(合法化する事で違法麻薬を締め出せる)。本書はあくまで欧米の話であって、アジア圏は特になし。こっちの方はどうなっているんだろう。

ハッパノミクス

ハッパノミクス