福田逸『父・福田恆存』(文藝春秋)。麗澤大学出版会の全集を持っているがほとんど読んでいないのに、この本を読むのもどうかと思いながら読んだ。身内の評伝というのは距離感がどうも苦手なのだが、本書は著者が年取ってから書いたのもあってか、わりとスムーズに読めた。旧仮名遣いだけど。
文藝春秋版全集の「覚書」を書いている頃は、脳梗塞と老いによって無残なものだった、と冷徹に書いているのが印象的で、劇団の内側の揉め事も赤裸々に書いている。まぁその辺の私事は正直それほどおもしろくもないんだけど、福田恆存の全盛期を知っている人ならば意外なのかもしれない。個人的には鉢木會の面々とのやり取りがおもしろく、中でも大岡昇平との手紙による和解はじんわりくるものがあった。《政治の上で、意見が逆になつたら、それだけで、その人とは何もかも相容れないと思ひこむほど、政治を最高の基準にして、物事を判断する人間ではありません》。この一文は、自分含めて皆さんよく読んだ方がよいかと思います。
それはともかく、果たして福田恆存の著作というものは後生にも読まれるものなのだろうか。俺世代がギリギリな気がしないでもない。彼が心血を注いだであろう演劇方面では何か遺産があるのだろうか。福田恆存ほどの存在でも、多くの人から忘れられていくのかもしれない。時間というものは、とかくやさしく残酷なものだと思う。
- 作者: 福田逸
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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