不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

読書

あん時のアリ

ジョシュ・グロス『アリ対猪木 アメリカから見た世界格闘史の特異点』(亜紀書房、棚橋志行訳)。解説の柳澤健氏の言う通り「1976年のモハメド・アリ」。アメリカのボクシング(vsプロレス)→アリ・猪木→UFCという歴史を描いている。アリが猪木と戦ったのは…

最近読んだ不思議な小説

ローベルト・ゼーターラー『キオスク』(東宣出版、酒寄進一訳)。作家名も出版社も知らないが、シーラッハを訳した酒寄氏によるものだったので読んでみた。なんでも「はじめて出逢う世界のおはなし」というシリーズのオーストリア編らしい。もう既に何冊か…

最近読んだ人文書

スディール・ヴェンカテッシュ『社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた』(東洋経済新報社、望月衛訳)。『ヤバい社会学』の続編でシカゴからニューヨークへ。出てくる人物も事件も事象もおもしろいし興味深いんだけど、とにかく著者の我や自意識…

リベラルと経済の本二冊

北田暁大・栗原裕一郎・後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』(イースト新書)。論壇とあるが基本的にリベラル左派の事情。ポイントはどれも知っていたけど、流れ繋がりが掴めるし、問題点着眼点もよくわかって、昨今の言論事情を把握するのに…

出所は2024年

ライアン・デンソン『スパイの血脈 父子はなぜアメリカを売ったのか』(早川書房、国弘喜美代訳)。ロシアに情報を売ったCIAの父と、捕まった父に代わりスパイの役目を果たした息子のノンフィクション。血脈というので、何世代もいるのかと思われそうだが…

私小説家と詩人

高橋順子『夫・車谷長吉』(文藝春秋)。一枚の絵葉書から交わった私小説家と詩人の人生。ベタつきのない涼やかな、だけど思慕のある文体で、私小説家の正気と狂気とその狭間を書いている。「この世のみちづれにして下され」という殺し文句。結婚の絵葉書を…

最近読んだ本

東浩紀『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン)。読むのに時間がかかったし、さすがに一度では咀嚼しきれんが、しかしおもしろかったなぁ。「観光客」と「誤配」。大学時代に、何の講義だったか、「現在の世には偶然が足りない」という拙いレポートを書いた…

最近読んだノンフィクション

アン・チャップマン『ハイン 地の果ての祭典: 南米フエゴ諸島先住民セルクナムの生と死』(新評論、大川豪司訳)。どこでセルクナムの事を知ったのかは忘れたが(吉野朔実劇場で読んだような覚えもある)、ずっと気になっていて、ついに出た研究本。正直言っ…

英国の地べたから

ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)。『ヨーロッパ・コーリング』がイギリスの上半分を、そして本書が下半分を書いている。著者の本はほとんど読んでいるが、これまでで一番おもしろかった。ど…

最近読んだエッセイ(?)本

町田康『関東戎夷焼煮袋』(幻戯書房)。関東に毒された俺が大阪の魂を取り戻すべく、大阪のソウルフードを作ったり食したりする。ただ、これだけの話なのにしなくてもいいような艱難辛苦七転八倒紆余曲折を彷徨う男の軌跡。途中でちょっと飽きたけど、楽し…

最近読んだ小説

グレン・エリック・ハミルトン『眠る狼』(ハヤカワ文庫、山中朝晶訳)。王道かつクラシックと言えるハードボイルドで、かなり楽しんだ。登場人物のキャラ造形と関係性がいいし、タフでクレバーな主人公もナイス。主人公は陸軍所属の軍人で、大泥棒の祖父か…

最近読んだ本

先日も書いたがNetflixのせいで、家で本を読む時間が大幅に削られている。ちょっと自分内ルールを作らなければいかんなぁ。本も読みたいのだから。 ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』(東京創元社、茂木健訳)。時間も空間も際限のないホテルが舞台のSF…

(ノン)フィクション本二冊

武田徹『日本ノンフィクション史―ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで』(中公新書)。こんな長い副題をつける必要はなかったと思うのだが、それはともあれ、丁寧に論考を重ねているが、それだけにまどろっこしさも若干あるものの、ノンフィ…

最近読んだ本

栗原康『死してなお踊れ』(河出書房新社)。踊り念仏・一遍上人の評伝。伊藤野枝伝ほど勢いはないが、相変わらずグル―ヴィな文体と一遍の生き方考え方がシンクロして、読んでいて心地いい。人は選ぶだろうが。一遍の考えや生き方をものすごく要約すれば、「…

最近読んだ新書

野中モモ『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』(ちくま新書)。ボウイの魅力はもちろんの事だが、著者のライティングセンスがすごい。新書サイズで膨大なボウイの音楽活動はもちろん、舞台や私生活にも触れ、さらに例えば日本の少女漫画への影響な…

「殺」の一字を背中に背負って

村上春樹『騎士団長殺し』(新潮社)。感想を書いた気になっていた。上下巻でなく、わざわざ「第1部 顕れるイデア編」、「第2部 遷ろうメタファー編」(仰々しい副題だな)にしているという事は今後も続いていくんですかね。『カラマーゾフの兄弟』のような…

最近読んだ本

墓田桂『難民問題』(中公新書)。難民問題喧しいのでざっと読んでみた。日本の話に限って言えば、「日本は難民に冷たい」と諸々の数字が低いけれど、内情を見るとわりと適切かつ冷静に対応しているという論旨は意外だが、資料と実体験による著者の文章に説…

沈黙は金ではない

ジョン・クラカワー『ミズーラ 名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度』(亜紀書房、菅野楽章訳)。内容は硬派なノンフィクションだが、真っ赤な紙に白い「正義の女神」がいる装丁、各章扉のフォントの使い方など、デザインがいい。亜紀書房のノンフィク…

「浩樹」で「こうじゅ」と読むのが本名

伊藤彰彦『無冠の男 松方弘樹伝』(講談社)。最初に書いておくと、松方弘樹の事はよくは知らない。好ましい俳優だけど、好きと胸張れるほどではない。ただ、『映画の奈落』を読んだ事、先日亡くなった事、そして高校時代に寮の部屋で、おそらく再放送の『遠…

わがままで何が悪い

栗原康『村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝』(岩波書店)。本屋で見かけて、「すげぇタイトルだな」と印象に残っていたのだが、評判がいいので読んでみた。この伊藤野枝という人がタイトルの言葉を吐いたのだろうと思っていたけど、一応そんなような事は…

炸裂する炸裂志

閻連科『炸裂志』(河出書房新社、泉京鹿訳)。昨年末に買ったのだが470P二段組みというボリュームに、これに手を出せば他の本が読めなくなるなと思ってなかなか手を出さなかったのだが、いざ読みだしたらおもしろくて、三日くらいで一気に読み終えてしまっ…

最近読んだ本

柳美里『人生にはやらなくていいことがある』(ベスト新書)。柳美里は独特の暗さが苦手で(暗い自体は別にいい)、これまでほとんど読んでこなかったのだが、『貧乏の神様』を読んでからは何だか気になる作家になった。本書はタイトルに惹かれて読んだ(編…

最近読んだ小説

山下澄人『しんせかい』(新潮社)。芥川賞受賞直後のタイミングで読むとは思わなかった。夢うつつな気分で思い出話として過去形で語られているんだけど、一人称から三人称になったり、視点がグッと動いたりと不安定で、ほんとうが作り話になるように「思い…

お前の命はナンボや

ロレッタ・ナポリオーニ『人質の経済学』(文藝春秋、村井章子訳)。現在横行している国際誘拐事件の顛末や裏側を取材して書かれたノンフィクション。経済学というのはタイトルだけ。あとがきによると文藝春秋の編集者からの企画で生まれた本らしい。関係者…

UではなくSの物語

柳澤健『1984年のUWF』(文藝春秋)。連載時に読まず単行本で一気読み。予想通り期待以上のおもしろさだった。いまだまとわりつくU幻想、さらに言えば前田日明の格闘王神話を引っぺがされる、または打ち砕かれる思いになるだろう。それは悪い気分ではない。…

年始に読んだ本

いまさら年始も何もないものだが、一応。 ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(河出書房新社、柴田裕之訳、上下)。話題になっていたので読んでみた。ざっくり言えば、「認知革命」「農業革命」「科学革命」という三大革命を軸に人類史を振り返り、ホ…

昨年末に読んだ本

年末年始で本を読むぞと思っても、たいがいそれほど読めないものなのだが、今回は思ったよりも読めた気がする。それでも数冊だが。 デヴィッド・エドモンズ/ジョン・エーディナウ『ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の…

かくも広大な音楽の宇宙

アーウィン・チュシド『ソングス・イン・ザ・キー・オブ・Z アウトサイダー・ミュージックの巨大な宇宙』(map、喜多村純訳)。『マダム・フローレンス 夢見るふたり』を見た後、この本に彼女について書かれていると知り、読んでみたのだが、何とも不思議な…

最近おもしろかった漫画

本は短篇小説をちびちび読んでいるが、それに比例するように漫画はどんどこ買ってしまい、結構読んでいる。中でもオススメが下記。 池辺葵『プリンセスメゾン』(毎回名言だらけで、彼女らに勇気づけられている)、沙村広明『ベアゲルダー』(女子力よりも暴…

あなた狂う人、わたし書く人

梯久美子『狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社)。島尾ミホの評伝というよりも島尾敏雄・ミホ夫妻の評伝であり、しかし主眼は夫妻の人生ではなく、あの『死の棘』に「何を書かなかったのか」を探る謎解きミステリーと言ってもいい。最後の最後ま…