不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

あん時のアリ

 ジョシュ・グロス『アリ対猪木 アメリカから見た世界格闘史の特異点』(亜紀書房、棚橋志行訳)。解説の柳澤健氏の言う通り「1976年のモハメド・アリ」。アメリカのボクシング(vsプロレス)→アリ・猪木→UFCという歴史を描いている。アリが猪木と戦ったのは「プロレスファンだったから」、最高。丁寧に取材しているし、多くの証言は興味深い。肝心の猪木やボブ・アラム、そしてビンス・マクマホン・ジュニアに話を聞けなかったのは本当に残念だけど(難しいとは思うが)、アメリカのプロレスビジネスの裏側はかなりおもしろかった。それにしてもビンスの評伝を、誰か早く書かないかな。生きている間は無理かもしれん。特に裏を書くのは。
 試合15ラウンドの分析、いろいろな人のあの試合の感想、ブルース・リーの存在、PRIDE(裏の話にまで触れている)……多くの要素が絡まっているぶん、ちょっと筆がうまくないなと思う時もあり。ストーリーテリングが弱いというか。その辺は柳澤さんは本当にうまいんだろうな。ここはどうなんだろうという箇所が無きにしも非ずだけど、『1976年のアントニオ猪木』の補完としては十分かと(というと本書に失礼か)。
 あと、誰かカール・ゴッチのガッチリした評伝書いてくんないかなぁ。試合終了後、《ゴッチはふたりともぶちのめしてやりたい気持ちになった》そうだよ、あの人。もう一つ、ボクサー対プロレスラーの歴史に《世間の憎悪を一身に集めていた》ジャック・ジョンソンも絡んでいて、白人レスラーボコボコにしちゃって、全国で人種暴動が起き、試合の映像を開催州以外に持ち出すなって議会が法的に禁じたそうな。すごすぎる。この人の評伝や、ドキュメンタリー映画の公開もお願いします。

アリ対猪木――アメリカから見た世界格闘史の特異点

アリ対猪木――アメリカから見た世界格闘史の特異点