不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

かくも広大な音楽の宇宙

 アーウィン・チュシド『ソングス・イン・ザ・キー・オブ・Z アウトサイダー・ミュージックの巨大な宇宙』(map、喜多村純訳)。『マダム・フローレンス 夢見るふたり』を見た後、この本に彼女について書かれていると知り、読んでみたのだが、何とも不思議な本だった。まずこの出版社を初めて見た。どうやら音楽関係でCDなどを出しているみたいだが。註がやたら充実していて小田晶房という人が書いていると思われるのだが、そこかしこに「こんな話は聞いた事がない」とか「この本も出したいんだよね」とか、自分の意見丸出しである。おもしろい。本文も400Pと厚めな上に、文字がやけに小さくビッシリつまっている。2006年に出た本とは思えない。いや、昔だって四六判でこんな小さい字はあまりなかったのではないか。
 肝心の内容だが、副題からもわかる通り、アウトサイダー・ミュージックの創造主たちを取り上げたもので、シド・パレット、キャプテン・ビーフハートといった著名人もいるが、ほとんどが無名のミュージシャン。とにかく自由な人間たちばかりで、世界は広すぎる事を実感する。アウトサイダー・アートとミュージックが違うのは、アートは外部と遮断された部分があるが、音楽は聞き手が必要、つまり商業的な要素があって、そこで現世と浮世が細く繋がっている。あっちではなくこっちにいるのだ。もちろんあっちの先の方へどんどん行ってしまう人もいるけれど。
 音の形容が過剰なのが鼻につく部分があったけど、Youtubeで実際に聞けるのが、ネットの有り難いところ。例えば第一章で出てくるThe Shaggsはこんな感じ。


 孤高のミュージシャン(?)Jandekはこんなの。



 俺が文章を読んでいて一番魅力的に思ったのは、B.J.Snowden。



 読みたかったマダム・フローレンスについては10ページ程度と短めではあったけれど、彼女の高潔な意志がよくわかったし、今わの際の「私が歌えなかったという人もいるかもしれない。でも私が歌わなかったという人は一人もいやしないわ」という言葉が、アウトサイダーミュージックの担い手だけでなく、全ての創造主たちを奮い立たせるもので、本当にすばらしいと思った。そんな彼女の歌はこれ。

 amazonでも楽天でも売られていないようなので(よく図書館に置いてあったな……)、ウェブショップURLだけ置いておきます。
http://mapup.shop-pro.jp/?pid=2584000