不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

お前の命はナンボや

 ロレッタ・ナポリオーニ『人質の経済学』(文藝春秋、村井章子訳)。現在横行している国際誘拐事件の顛末や裏側を取材して書かれたノンフィクション。経済学というのはタイトルだけ。あとがきによると文藝春秋の編集者からの企画で生まれた本らしい。関係者への取材をたくさんしていて、読み応え十分。
 『アイ・イン・ザ・スカイ』と同じように、西欧諸国は自らが作りあげた国際秩序というシステムとグローバリゼーションによって生まれた敵と戦い続けていて、そしてこれは永遠に勝てない負け戦という絶望的な構図である事がここでも浮き彫りになっており、この出口がどこにあるのだろうとうんざりする。
 日本関連で言えば、後藤健二・湯川遥菜事件についても触れられており、当初は「助かる人質」だった彼らを日本政府(安倍首相)が判断ミスによって戦略の駒にしてしまい殺される結果になってしまったと指摘している。政府としての交渉や外交戦略などがあったのだろうが、しかしそれは責められるべきだし、ISの外交戦略の巧妙さもすごい。ただ、日本政府を擁護するというわけではないが、他の先進諸国がうまくやっているのかといえば、どの国でもメチャクチャなのが実情だったりする。誘拐された時点で混乱必至で、ケースは全て違い、結果は全くわからないのだ。まぁそれはそれとして国の思惑というのもたっぷりあるんだけど。
 誘拐する側は時間と金をかけて、大金をせしめたい。人命人権なんかどうでもいい相手に、そこに重きを置く側が負けるのは目に見えているし、人権が重くなっていけばいくほどに人権ビジネスは跋扈していく悪循環。人権を軽視している国家の誘拐事件が少ないのはそういうこと。一方で、「自己責任」という言葉にうんざりする方は多いかもしれないが、やめろと言われているのに行ってしまって捕まる人が多すぎるのもまた事実。べテランジャーナリストでさえ失敗するのに理想だけを持って行って攫われ、彼らの?武器″になることの重大さと愚かさは考えた方がいい。
 わりと気軽に読み始めたのだが、現代社会の構図が浮き彫りになっていて、とにかく複雑極まりなく、問題を安易に論じる事ができないのがよくわかった。建前の危うさ、本音のヤバさも見えて、だからこそ、そのバランスを考えねばならんのだろうと思う。余談ながら池上彰氏の解説は完全に蛇足、ない方がよかった。「池上さんの解説だ!」と言って買う人ってどれくらいいるんだろう。それにしても、ジェイソン・ボーンになりたかった男というのが本当にいるんだな。世界は広い。

人質の経済学

人質の経済学