不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだ小説

 山下澄人『しんせかい』(新潮社)芥川賞受賞直後のタイミングで読むとは思わなかった。夢うつつな気分で思い出話として過去形で語られているんだけど、一人称から三人称になったり、視点がグッと動いたりと不安定で、ほんとうが作り話になるように「思い出している」事は強く感じられる。「ぼく」の名前が「やましたすみと」だから、つい私小説的に読んでしまうが、しかしフィクションかもしれないし、思い出なのだからほんとうかもしれないし、思い出話なのならやっぱりフィクションかもしれない――という現実と虚構の境界線のあやふやさがおもしろい。
 併録されている「率直に言って覚えていないのだ、あの晩、実際に自殺をしたのかどうか」(タイトルいいな!)は、これまでの改行多めから打って変わり、一気に捲し立てるような文体で、現実の道をガツガツ歩いているような感覚がおもしろい。この二編が一冊にまとまっているのがいい。『鳥の会議』から読み始めたので最近だけど、山下澄人はやっぱりおもしろいな。読み続けよう。

しんせかい

しんせかい

 ウォルター・テヴィス『地球に落ちて来た男』(二見書房、古沢嘉通訳)。映画未見。SFというより寓話に近く、こんな透きとおった孤独を綴った物語だとは思わなかった。見つめる先にあるはずの幸福に辿り着けぬとわかりながらここにいる事を自覚するニュートンと、彼に寄り添う二人の寄る辺なさ。映画も機会があったら見てみたいが、何だかずいぶんハードルが上がった気がする。
地球に落ちて来た男

地球に落ちて来た男