不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだノンフィクション

 アン・チャップマン『ハイン 地の果ての祭典: 南米フエゴ諸島先住民セルクナムの生と死』(新評論、大川豪司訳)。どこでセルクナムの事を知ったのかは忘れたが(吉野朔実劇場で読んだような覚えもある)、ずっと気になっていて、ついに出た研究本。正直言って、文章は硬くて読みにくいし(たぶん原文からしてこうなのだろう)、固有名詞だらけでとっつきにくいし、もうちょっとおもしろく書いてくれとは思うが(謎解き風に工夫はしているけれど)、とにかく文化と儀式がおもしろすぎるし、写真が満載なのがいい。何はともあれ、このビジュアルと帯文を見てくれ。
 簡単に言えばこの格好は精霊を模したもので、ハインという長期に渡る儀式(祭り)の中で登場する。疑問なのは「女たちが精霊が嘘である(男が扮装している)事を知っているか」(この文化ではかつては女が男を支配していたが、いまは逆転している支配構造になっている)。ここで思い出すのは『サピエンス全史』で指摘されていた、「ホモ・サピエンスは『想像上の秩序』、すなわち嘘とそれを信頼する事で文明を築いてきた」という点。つまり最果ての地であっても、それは共通しているのである。人間には嘘が必要なのだ。嘘とは、すなわち物語(フィクション)。書かれている事も掲載されている写真も刺激的でした。
 セルクナムについては、このページでちょっと紹介されているのでご参照を。滅んだ原因はスペイン人の虐殺もあるけど、はしかの流行がかなり大打撃だったみたい。本書を読んだ後で、パトシリア・グスマン監督のドキュメンタリー『真珠のボタン』がセルクナムの事を取り上げていると知ったので、近いうちに見たい。

ハイン 地の果ての祭典: 南米フエゴ諸島先住民セルクナムの生と死

ハイン 地の果ての祭典: 南米フエゴ諸島先住民セルクナムの生と死

 大野裕之チャップリン 作品とその生涯』(中公文庫)。素っ気ないタイトルの名の通りチャップリンの評伝。入門書なのでわりかしさくさく進み、あっさり風味で書かれているが、この裏には膨大な資料の読み込み、取材などがあった事が窺い知れる迫力を感じた。何といってもNGフイルム分析が圧巻!
 これまでの自分の認識で間違いがあれば正す誠実な態度、デマは許さない姿勢、愛と情熱で持ってチャップリンを語っていて、たいへん読みごたえがある。FBIにによるチャップリンの「捜査」はすごい、まさかO川R法みたいなことをやっているなんてね……。日本との関係はちょっとは知っていたが、『街の灯』が歌舞伎になっていたとは知らなかったなぁ。これぞまさに「クール・ジャパン」か。
 本筋ではないけど、ナチスの「ユダヤ人認定」を引き合いに、「リベラルな事を言えば『在日認定』を受けるいまの日本」という一文があったが、在日認定がバカらしいのを前提として、あれは「リベラルな事を言うから」ではないのでは。右派だって言われるし。逆に「保守的な事を言えば『ネトウヨ』扱い」もある。「上野千鶴子ネトウヨ」と見かけた時にはたまげたものだ。いまの日本の言論状況を嘆く著者の気持ちはわかるが、左右関係なくおかしなことになっているので、ちょっとバイアスかかってますね、とも思った。チャップリンとは関係ないけど。
 著者はバスター・キートン伝も書くつもりらしい。これも楽しみに待ちたい。