不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

イップ・マン 継承/あなたの音が聞きたくて


 これまで『イップ・マン 葉問』しか見た事がなく、シリーズにもドニー・イェンにも格段の思い入れがあるわけではない私ですが、見終わった後で「おまえ、もう、なんちゅう、なんちゅうもんを見せてくれるんや……」とたまらない気分になってしまった。
 アクションはどれもすばらしく、中でも密室エレベーターで奥さんを守りながらの、また高低差の階段での一連のファイト、その直後の至高の三分間は格別で、ベルが鳴った瞬間に拍手しそうになりました。あれが、あれがタイソンだッ!
 香港という場所が舞台として、東西の支配・被支配の構図や、文化の衝突があるわけだが、それを武は解決できるのかという問いかけに対して、すぐさま抜本的な解決には至らないものの、武の交流によって確かにその人同士が通じ合えるのだという一つの回答を示した上に、繰り返しになるが、こんなふうにマイク・タイソンの、俺の知っている強いタイソンのカムバックを見せてくれるのかと、もうこれだけで五億点をつけたくなる。ダッキングもパンチも、すばやく、すばらしかったよ。
 そのため、つい「この後はオマケだな」くらいに思っていたら、むしろそこからが本番であった。普段は喜びは前面に出すものの、それ以外の負の感情は凪のように静かに受け入れたりやり過ごすイップ師が、妻ウィンシン(リン・ホン)からの一言でが瓦解してしまう、その場面ではこちらも涙しそうになってしまった。
 優劣を決する事ではなく、勝利を目指すのでもなく、強くなる事でもない、それ以上に尊いものはこの世には存在し、そのために武はあなたの傍にあるのだ――そんな思想が、映画で見事に表現されていた。その後、再び凪のように悠然としたイップ師の静けさが、今度は切なく見えてしまったよ。