不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

年始に読んだ本

 いまさら年始も何もないものだが、一応。
 ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(河出書房新社、柴田裕之訳、上下)。話題になっていたので読んでみた。ざっくり言えば、「認知革命」「農業革命」「科学革命」という三大革命を軸に人類史を振り返り、ホモ・サピエンスは「想像上の秩序」、すなわち嘘とそれを信頼する事で文明を築いてきたという話。
 新発見や斬新な解釈が書かれているわけではなく、これまであった事実へのスポットの当て方、視点の切り替えなどによって新たな角度で人類史を見る方法といった感じで、全体的に身も蓋もない、あるいは皮肉にまみれた書きっぷりがなかなかおもしろい。鼻につく人もいるかもしれないけど。
 上巻で文明の礎や概観を、下巻では人類はどこへ向かっていくのか、つまり「幸福とは何か」=「何を求めているのか」を突き詰めていく。終わりの方のくだりを読むと、人類ってこのままだと破綻するような気がして、どこかで革命、あるいは自分たちを書き換える必要があるのではと思った。こうやって虚構を引っぺがしたのに、その真実や裏側ではなく(まぁそれも眺めてはいるんだけど)、人類史が虚構である事を改めて確認して、それでもなおその虚構を信頼して築き続ける、それこそがホモ・サピエンスならではの思考なのだろうな。

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

 ジョン・ファンテ『満ちみてる生』(未知谷、栗原俊秀訳)。本作でも変わらぬ素直さ下世話ナイーブさで、喜怒哀楽を行ったり来たり。情けない自分に、頑固親父、さらに妊娠中の(いろいろ不安定な)妻が加わり、真顔で冗談を言っているようなユーモアが笑える。生命誕生までの心・信仰の変遷が読ませる。読みどころは、電車内での親父の立ち振る舞いとそれによる周辺の反応と、洗礼で感激して泣いた妻に「なぁ、ひどい顔だぞ」と言うと、妻が《ぴたりと泣くのをやめた。コンパクトを開き、顔を整え、何も言わずに洗礼盤の方へ向きなおった》というくだり。
満ちみてる生

満ちみてる生

 外山健太郎『テクノロジーは貧困を救わない』(みすず書房、松本裕訳)。「テクノロジーはツールであって、それだけで貧困(など諸問題)は解決されない」、テクノロジーに限らず民主主義だって普通選挙を導入すればいいわけではなく、教育その他諸々も対応しなければ意味がないという話で、素人考えで恐縮だが、こんな事は自明な気がするんだけど、何故そこを見誤る人がいるのだろう。後半はやや退屈でした。著者は日本人だが原本は英語で書かれていたので和訳されたらしい。
テクノロジーは貧困を救わない

テクノロジーは貧困を救わない