不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

バンドやってません

 イアン・F・マーティン『バンドやめようぜ! あるイギリス人のディープな現代日本ポップ・ロック界探検記』(ele-king books、坂本麻里子訳)。日本在住のイギリス人から見た日本の音楽事情。ジャーナリズムを含めた音楽業界への疑義を、歯に衣着せず書きまくり。マクロからもミクロからも見る視点がいい。前半は日本のポピュラーミュージック史で、この解説・分析が正しいわけではないが、なるほどなと納得するところは多々ある。演歌やアイドルにもきちんと目を配っているのもいい。後半は自身が見たものや、経験を踏まえた業界・シーンへの警告と提言。
 日本のオルタナティヴ・ロックを語るのに欠かせないバンドとしてくるりスーパーカーナンバーガールを挙げているのだが、ファンだから言うわけではないが、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの存在も相当デカかった気がする。あとパンクだけど、Hi-standardも。まぁそこは様々な見方があると思うので別にいいんだけどね。一番痛烈だなと思ったのは、「『BOLERO』以降、ミスターチルドレンは聴くに値する作品を何も作っていない」というくだり(それまでにジャパニーズ・ロックをアップデート、再定義という偉業を成し遂げているとも書いている)。実は俺も、ミスター・チルドレンは『BOLERO』までしか聴いていない(それまでは結構好きだった)。あとアイドルのくだりで、《(80年代アイドルの)楽曲が持つ明らかに「嫌よ嫌よも好きのうち」なメッセージはセクハラを招き寄せる合図として機能していた》と指摘していたのが印象に強い(現在のアイドルについては書かれていなかった)。
 ともあれ、《日本では否定的なレヴューがタブーとなっているのはなぜか?》(帯文)も含めた音楽事情への言葉は、著者もその一員であるからこそで、おもしろかった。いい意味でも悪い意味でも、日本は変な国だわ。
 本書についての著者インタビューもあり、なかなかパンチラインが多くて読み応えあり。クレバーで、強かで、意地悪だね。好きです。
  アイデンティティの問題と、いまアイドルについて語らないこと