不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

読書

ヒトラーとドラッグ:第三帝国における薬物依存/ナチと毒薬

ノーマン・オーラー『ヒトラーとドラッグ:第三帝国における薬物依存』(白水社、須藤正美訳)。ナチやヒトラーに特段の関心があるわけではないが(ないわけではない)、表紙写真のヒトラーのヤバさに惹かれて手に取ってみた。自称(いや、結構な人がいまで…

最近読んだ小説、海外

日本人作家と海外の作家とをわける意味は特にない。 ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』(新潮社、岸本佐知子訳)。ズレて痛い人間たちが、二転三転怒涛といっていい展開で各々の人生を練り歩く様を、「みんなそうなんだよね」と囁くような真摯で誠実ともい…

最近読んだ小説

深緑野分『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)。やー、おもしろかった。戦争と差別がある(あった、いやまだそこにある)生活を細やかに書き込んだディテールによって根底をしっかり支え、それぞれ違った過去を抱えた者たちに容赦なく追ってくる絶望に声…

雑読中

持ち歩く本と家で読む本と寝る前に読む本と、といった感じでいつも二、三冊ほど併読していて、次に読む本もだいたい決めているのだけれど、たまにプツッと途切れる時があって、いまがそれで、そうなると何を読んでいいのかわからなくなるし、何を読んでもあ…

最近読んだノンフィクション本

ドニー・アイカー『死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』(河出書房新社、安原和見訳)。解説はご存知(なのかどうか、知名度はわからんのだが)佐藤健寿。読み終えてカバーを外すまで亜紀書房の海外ノンフィクションシリーズだと…

最近読んだ性の小説

王谷晶『完璧じゃない、あたしたち』(ポプラ社)。女性たちの23の出会いと別れ、最後ではない最初と途中の物語集。多彩なシチュエーションを練り上げ、見事な文章で綴られており、胸にしみたり、胸をつかれたりと脱帽。でもワンシチュエーションを長篇で読…

原民喜 死と愛と孤独の肖像/繊細で過酷を生き抜いた

梯久美子『原民喜 死と愛と孤独の肖像』(岩波新書)。俺にとって名前しか知らなかった作家・詩人の原民喜が、読了後には何故か妙に近しい存在として感じてしまった。原爆投下前後が本書のクライマックスではあるのだが、俺はむしろその後の彼の姿、というよ…

ちょっと前に読んだ本

磯部涼『ルポ 川崎』(サイゾー)。川崎のあの殺人事件にまつわるルポルタージュだが、真相を解明するのではなく、深層へと潜り込んでいく一冊。著者のフィールドである音楽(ヒップホップ)を軸に、人脈を駆使して人と会って話を聞きだすのが、よくぞここま…

どもる体/この体で生きていく

伊藤亜紗『どもる体』(医学書院)。著者の本は『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)を読んでいて、こちらはタイトル通り「見えない」事から「情報」「意味」を問いかける一冊で、おもしろかったのだが文章がイマイチ乗れなかった、し…

読書の日記/の日記

阿久津隆『読書の日記』(NUMABOOKS)。初台のブックカフェfuzkueの店主が、店のサイトで連載している日記をまとめたもの。webで常に読んでいるけど改めて紙の本になると聞いて楽しみにしていたのだが、日記の本になる過程を読んでいると「チェックで200ペー…

最近読んだ海外小説

リチャード・フラナガン『奥のほそ道』(白水社、渡辺佐智江訳)。2014年ブッカー賞受賞作で、「傑作の中の傑作」と評されたそうで、そこまで言うかと思い読んでみたのだが、正直読んでいる途中は「そこまでかねぇ?」と思ったものの、終盤から思わず知らず…

三美スーパースターズ 最後のファンクラブ/好きで弱かったわけじゃない

パク・ミンギュ『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』(晶文社、斎藤真理子訳)。何かに熱中した青春の疾走、振り回された青年期、人生の苛烈を味わった時、結果が全てであるプロ野球の世界であるにも関わらず「勝負だけが全てではない」と教えてくれ…

アンダー、サンダー、テンダー/なんだー、かんだー、やってんだー

チョン・セラン『アンダー、サンダー、テンダー』(クオン、吉川凪訳)。ぬああああ、と読みながら、そして読み終えて悶絶するほどすばらしい青春小説であり、同時に秀逸な郊外小説、打ちのめされる、何に、己の過去か、青春か、こんな青春はなかったけれど…

最近読んだ本

多和田葉子『地球にちりばめられて』(講談社)。言語と身体、言語と祖国、言語とコミュニケーション、言語とアイデンティティ……言語=自分への問いかけをしつつ、母語の文法≒国家/システムから解き放たれれば自由に「自分」になれるのだ、境界線を超越し新…

ブッチャーズ・クロッシング/牛の屍を超えていけ

ジョン・ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング』(作品社、布施由紀子訳)。日本翻訳大賞読者賞を受賞した『ストーナー』より前に書かれた、バッファロー狩りに行って帰ってくる、一応主人公は若い青年だが、男四人の物語。『ストーナー』が内側の静だ…

ブラック・マシン・ミュージック/君の音が鳴り続ける

野田努『ブラック・マシン・ミュージック: ディスコ、ハウス、デトロイト・テクノ 増補新版』(河出書房新社)。デトロイトは何故映画などでああいった描き方をされるのだろうと書いた『ドント・ブリーズ』の感想のコメント欄に、暗黒皇帝ことglobalheadさん…

よつばの成長と世界

あずまきよひこ『よつばと!』14巻(アスキー・メディアワークス)が出たが、正直もう読まなくていい気がしていたんだけど一応買って読んでみたら、驚いた事に14巻にしてこれまでで一番おもしろかった。まずそれよりも俺が記憶していたのは12巻のラストシー…

探しているわけではないのだが

最近、「文学が、特に日本の小説が読みたい」という欲求があって、本棚からあれやこれや出したり図書館で借りたりしているのだが(文学以外の本もそれなりに読んでいるけど)、その時に「これは文学、これは違う」と無意識に線引きをしている事に気づいて、…

最近読んだ映画本

ベ・テス『北野武映画の暴力』(クオン)。サム・ペキンパー、深作欣二の暴力と比較しながら北野武の初期三部作『その男、凶暴につき』『3-4×10月』『ソナチネ』の暴力を論ずる。筆者は韓国人で、日本で書かれた論文が元らしく訳者の名前はなし。 視点はあく…

最近読んだ漫画

手抜きで一覧のみ。お気に入りは『ニューヨークで考え中』『古本屋台』と『北北西に曇と往け』。『北北西〜』を読んでアイスランドに行きたくなるくらいに単純。ニューヨークで考え中(2)作者: 近藤聡乃出版社/メーカー: 亜紀書房発売日: 2018/01/18メディア:…

確かにハードボイルド

高野秀行・清水克行『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』(集英社インターナショナル)。名著『世界の辺境とハードボイルド室町時代』の名コンビ is BACK。続篇ではなく、読書会という形のスピンオフ。意外と高野氏が「ウケたからといって、…

最近読んだ新潮社の小説

橋本治『草薙の剣』(新潮社)。10代から60代までの「生」の漢字がつく六人の男たちと、その周りにいる名も無き人たちの生活と人生を描く事で、日本の100年という歴史を紡いでいく。誰もの人生がわりと中途半端に終わった気がするのだが、それは生の継続に終…

最近読んだ岩波新書

軽部謙介『官僚たちのアベノミクス――異形の経済政策はいかに作られたか』(岩波新書)。アベノミクスという経済政策そのものの評価ではなく、何故この政策が作られたのか、また副題にあるように「異形」なのかを追ったノンフィクション。地味で、渋い。だが…

最近読んだ小説

原りょう『それまでの明日』(早川書房)。沢崎カムバック(と毎回言っているな)。今回は文庫を待たず四六版で読んだ。相変わらず隙のない筆さばき、謎解きではなく「何かを探して見つけた時にはそれは変わっていた」という本流ハードボイルドの王道、であ…

最近読んだ評伝

ジョン・ネイスン『新版 三島由紀夫ーある評伝 』(新潮社、野口武彦訳)。保阪正康の本や、少し前に著者の回想録『ニッポン放浪記』(晶文社)を読んだので(こっちの感想は書いていない)、本書を読んでみた。図書館になかったので古本で購入して。かなり…

映画評論でなく映画エッセイ

高崎俊夫『祝祭の日々: 私の映画アトランダム』(国書刊行会)。最近の映画エッセイ本の中でも出色のおもしろさ(といっても最近そんなに映画エッセイ本を読んでいないんだけど)。不勉強で「俺が知っている(持っている)、あの本もこの本も編集した人なの…

最近読んだHail to the Thief

マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』(堀之内出版、セバスチャン・ブロイ/河南瑠莉訳)。サッチャー(そして安倍晋三)が言う「この道しかない」に「?」をつけて、資本主義は嫌だけど代替案もないしね、というある種の諦めを「資本主義リアリズム…

最近読んだ本

ノーマン・マルコム 『ウィトゲンシュタイン―天才哲学者の思い出』(平凡社ライブラリー 、板坂元訳)。著作を読んでみたいけど評伝でお茶を濁すの巻。見た目も生活も交流録も生き方も、これぞ「かっこいい哲学者」というイメージのままなウィトゲンシュタイ…

小さな灯の物語

ハン・ガン『少年が来る』(クオン、井手俊作訳)。クオンの「新しい韓国の文学」シリーズは、『殺人者の記憶法』の次は『アオイガーデン』を読むつもりだったのだが、4月にソン・ガンホ主演の『タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜』(それにしても、だっ…

最近読んだ本

保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』(ちくま文庫)。楯の会発足から、あの事件までを追ったノンフィクション。あくまで事件にフォーカスを当てているが、そこから漏れるように三島の真面目で繊細な性格が見えてくる。むろん切実な思いも。事件を点ではなく…