不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

黙殺するのは誰か

 畠山理仁『黙殺 報じられない“無頼系独立候補"たちの戦い』(集英社開高健ノンフィクション賞受賞作で、結構期待していた一冊だったのだが……いやー、期待以上におもしろくて一気読みしてしまった。これを読めば選挙戦、選挙報道を見る目、そして自身の一票を投じる先が変わるだろう。広く読まれてほしい。
 副題の無頼系独立候補とは、いわゆる泡沫候補の事。大川総裁インディーズ候補と呼んでいて、その大川総裁の存在もちゃんと言及されている。マック赤坂のような有名人から、ほぼ知られていない候補まで、何故彼らが立ち、行動し、政見放送や演説で何を語り、選挙活動で何を訴えようとしているのかを取材している。
 確かに勝ち目はないが、本気で、まじめに、政策を掲げる彼らの見る目が変わる事請け合い。とはいえ、彼らにおかしな面があるのも事実で、そこは的確に、冷静に著者が突っ込んでいく。だが嘲笑せず、上から目線にならないところに好感がわくし、自分が最初から偏見を持って見ている事に気づきもする。少なくとも彼らは自らの勇気と決断で行動したのだ。そこは称賛されるべきだろう。
 本書がすごいのは、単なる人物ルポではなく、ここから選挙報道=メディアの問題、選挙で問いかけれるもの、有権者が何を見るべきか、民主主義とは、という深いところまで誘われるところだろう。これまでちゃんと見ているつもりだったが、いろいろと気持ちが改まった。ちゃんとおもしろいし。なんというか、本当に単純な感想になってしまうんだけど、世の中に人あり、人に歴史あり、歴史にドラマあり、ドラマに笑いと涙あり、みたいな事をつくづく感じてしまった。最初に書いたけど、たぶん選挙への意識が変わるので、みんな読むといいよ。
 本書を読んだ後、Netflixで『立候補』を見た。こちらは2011年大阪府知事選においての泡沫候補に密着したドキュメンタリー。畠山理仁『黙殺』の補完というと映画に悪いが、『黙殺』でも中心人物となっていたマック赤坂トリックスターぶりといい声に目と耳が引かれる映像と音声の力を感じる。そして行動も。ただ映画としてはちと弱いかな。ラストシーンのマック赤坂への罵倒の恐怖、それと対峙する姿に見える覚悟と本気。あと、外山恒一はすごいなぁ……。

黙殺 報じられない“無頼系独立候補

黙殺 報じられない“無頼系独立候補"たちの戦い

映画「立候補」 [DVD]

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