不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

cinema

牯嶺街少年殺人事件/君がいたはずだった夏の日

この映画のタイトルを知ったのは、たしか大学時代に蓮實重彦の『映画狂人日記』を読んだ時だと記憶していて、とにかく絶賛していたので当然見たいと思ったわけだがその術もなく、あれから15年以上経過してついにの鑑賞となった。そのため期待のハードルが上…

ゴースト・イン・ザ・シェル/私のゴーストは囁かない

本作を見ている間はずっと実写化のイメージビデオを眺めている気分になった。原作漫画も、アニメは映画もテレビシリーズもほとんど見ているくらいには『攻殻機動隊』は好きなのだが、ある程度の脚色・アレンジは別に構わないのだけど、愛ゆえのオマージュと…

わたしは、ダニエル・ブレイク/名前を呼んでくれ

俺はパソコンどころかマウスの使い方もわからなくて、あんたたちがいなかったら何にもできないんだけど、代わりに工具箱を使ってあんたらが直せないものを直せるんだよ。困った事があったら言ってくれ……。その相互協力は言い換えれば支え合いであり、それは…

哭声 コクソン/第一回 KITOUフェスティバル

こういう映画とは思っていなかったので、些か驚いたものの、まぁそれも一興。ただ、ミスリードのための点の打ち方がかなりあざとく、線の引き方や視点の移動も多角的には思えず、筋や構造が思いのほか単純で、結局行きついたのが善と悪の二項対立というずい…

アシュラ/ドギョンが悪い

地獄の底の沼地で飛ぶ事も死ぬ事もできずに足掻く蝙蝠の物語。とにかく主人公のドギョン(チョン・ウソン)は、初めから終わりまでどうしようもないクズなままなのがいい。映画が始まった時にはもう追い込まれていて、そこからさらにドツボにはまるのだが、…

太陽の下で ―真実の北朝鮮―/日陰のところはよく見えない

「ドキュメンタリーを依頼されたのに、現地に行ってみたら台本があって、さらにあっち側の監督までいて指図しまくって、ヤラセという言葉を使うのも憚られるヤラせだったから、むかついたのでそれ含めて全部撮ってやれ」というドキュメンタリー。手法といっ…

グリーンルーム/僕らグリーン 胸にはゴールド

密室サスペンス・アクションを想像していたら、どちらかといえばホラーみたいだった。ユダヤ人とナチの衝突のようで、それがキッカケでも一要素でもなかったのが拍子抜け、かつ思ったより話もアクションもツイスト、ドライブせずに荒っぽくて、野暮ったい。…

マリアンヌ/君の名は

スティーブン・ナイトの脚本とブラッド・ピット目当てに見に来たが、どちらも扁平な出来にがっくりしてしまった。ブラッド・ピットはもともとミニマムでサラッとした自然な演技でやってきた役者だけに、顔ですべてを語るこの役は彼の任ではなかったように思…

愚行録/愚者は過去を彷徨う

(ネタバレ有り) 原作未読だが、これは映画の脚本に落とし込むのは結構難儀したのではないだろうか。極端なケースばかりではあるが、人々の感情の澱のようなものをすくい集める物語が、最終的には特殊な個の話として収斂されてしまっているのが勿体無い。長…

ラ・ラ・ランド/星掴む者が踏んだ夢

見終わって映画館から出る途中、横を歩いていた女性二人が「ミュージカルって言うけどツギハギだったね」と話していて、大きく頷きそうになった。感情、関係、物語を歌と曲で繋いだり埋めたりするミュージカルを期待すれば肩透かしになること間違いなしで、…

雨の日は会えない、晴れた日は君を想う/だからまず僕は壊す

本作で描かれている破壊の快楽と再生の美しさと爽やかさを見ると、デヴィッド・ボウイの「人は誰かが転落するのを見るのが大好きだ。でも転落した誰かが立ち直るのを見るのはもっと好きなはずだよね」という(出典不明の)名言を思い出した。 これはつまり現…

たかが世界の終わり/かつてそこにいた人

グザヴィエ・ドランの映画は前半かったるいが、後半にそれがサスペンスなりカタルシスに転換するのだけれど、本作はひたすら(意図的に)かったるいまま進んでいき、感情や言葉の交錯はあれど摩擦もノイズも作らず、触れ合わない事でその場や関係を炙り出し…

ドクター・ストレンジ/指先ひとつでどこまでも

『インセプション』を思い出す歪んでいく都市の映像から、ハッタリだけでできていてもいいかと一応覚悟して見に行ったわけだが、予想通り荒唐無稽のこけおどしとスピリチュアルなドラマで仕上がっていたけれど、その間隙を突くベネディクト・カンバーバッチ…

ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男/反乱せよと銃が囁く

戦場のえげつない肉体破損から始まり、リンチ、そして首吊りまで、えげつない血と死と暴力を正面から躊躇せずに捉えられている事で、現在のアメリカが彼らの屍の上に立って自由と平等という「当たり前」を勝ち取った事、同時にいまもこの戦いは続いている事…

トッド・ソロンズの子犬物語/さみしい人のやさしい手つき

ダックスフンド(原題『Wiener-Dog』の訳)ではそっけないからと子犬が出ないのに子犬物語にしたのはいいが、動物人情ものだと勘違いされては困るから監督名を入れておこう、といった会議でもあったのかと邪推するタイトルで、まぁしかしその懸念は正しい。…

スノーデン/裏切り者の名を受けて

陰謀論者のイメージがすっかりついてしまったオリバー・ストーンだが、映画の腕は錆びついていなかった(それでも唐突なニュルンベルク裁判批判には「さすがだな」と妙な納得もしてしまったが)。データ盗み出しと告発という地味な絵面を緩急つけた編集と演…

マグニフィセント・セブン/俺たちの夜明け

言うまでもなく『荒野の七人』、そして『七人の侍』が元になっているわけだが、二作とも見ているけれど前者はあまり記憶がなくて、見ておけばもっとオマージュネタなどが楽しめたかもしれない。後者はよく覚えていて、そのせいか時間が経つにつれデンゼル・…

ザ・コンサルタント/いつか笑える日

個人的に映画ベストを決める際に『デッドマン・ダウン』枠というものがある。注目作でも大作でもなく、かといって玄人向けの渋さもなく、それなりのキャストなのにいつの間にかシレッと公開されていて、だが期待せずに見るとなかなかの良作、というもので近…

沈黙 ―サイレンス―/上ではなく、横にいる

原作未読。「日本は沼地だ、根付かない」という言葉が全てであって、根付かせるという発想は思想の上書きで、それがどれだけ傲慢であるかは現在の私たちこそ痛烈に感じられるはずだろう。拷問は暴力そのものだが、「《これが普遍的な事実だ》としてキリスト…

ネオン・デーモン/フラッシュの点滅にご注意ください

おそらくサブテキストはいくつもあって、美の欲求、魅了する事、都市と田舎の構図、そして月……など映像から様々な読み込みが可能なのだろうと思うのだが、ニコラス・ウィンディング・レフンという監督は語りたいよりは撮りたい人で、光と闇で構成された目眩…

ブラック・ファイル 野心の代償/とはいえその覚悟があるわけでもなし

製薬会社の裏側を暴く社会派サスペンス、または法廷闘争を中心としたリーガル・サスペンス、あるいは野心に燃える弁護士が不正に手を染めて迫りくる危機にどう立ち向かうかという心理的サスペンス……種類は何であれ、そういったサスペンスを期待して見に行っ…

ドント・ブリーズ/凡人、盲を侮る

それぞれの背景や動機付けなどを思いのほかきっちり描いているだけに、設定の妙やその場をぶん回すような勢いはなく、グルーヴもドライヴも効きが悪いため、「あの盲人がここに至るまでどうやったんだろう」という疑問だけは最後まで拭いきれずいたのはいさ…

疾風スプリンター/友情・努力・勝利

エースと、タイプの違う新人選手二人と、女性の選手と、マネージャーその他がいて、愛だ恋だ友情だ嫉妬だをめぐる感情のもつれがあって、勝利と敗北があって、成功と挫折があって、悩みもトラウマもあったりして、それら全部を自転車ロードレースにぶつけて…

アイ・イン・ザ・スカイ/見えてないから気にしない

本作がどこまで現実の戦争の裏側を描いているのかはわからないけれど、見終わるや「勝手なもんだな」と吐き捨てたくなるほど戦争の内側を曝けだそうとする漆黒の意思で貫徹された一作であることは間違いなく、本質を炙り出している。 現在ただいま西側諸国が…

ローグ・ワン/名もなき者たちの詩

スピンオフなので本シリーズに比べて登場人物が簡単に死んでいくのだろうと予想していた。この「簡単に死ぬ」は死が軽いと同義ではなく、むしろ重い。なかなか死なない、または必ずピンチを脱するヒーローではなく、我々凡人と地続きに彼らがいるのだと感じ…

二〇一六年極私的良作映画十選

サウルの息子/Saul fia キャロル/Carol ズートピア/Zootopia ディストラクション・ベイビーズ サウスポー/Southpaw 二つ星の料理人/Burnt シン・ゴジラ アスファルト/Asphalte ジャック・リーチャー NEVER GO BACK/Jack Reacher: Never Go Back この…

疲れた身体に効く

本日、体力気力共にカラッケツ状態に陥ったので、急遽『シン・ゴジラ』二回目を、しかも立川シネマシティの極上爆音上映を見に行った。初体験となったが極上爆音と称するだけあって、音の圧が気持ちいい。さらに二度目なので細かい箇所やセリフをたっぷり楽…

リプリーによろしく

少し前の事だが、映画『キャロル』を見た。基本的に愛や恋中心の映画は苦手なので敬遠しがちだが、ケイト・ブランシェットもルーニ・マーラも好きだからと見に来てみたら、まさかこんな撃ち抜かれる気分になるとは思わず、衝撃すら受けた。言葉、仕草、目配…

ティーンエイジ・ナイトメア/イット・フォローズ

「知らない人と交わると、取り憑かれちまうぞ」という田舎の伝承のようなエロスとタナトスの無慈悲な追いかけっこが、現代アメリカに舞台を移した、ある種の青春群像劇になっているという歪さと硬質なショットが刺激的。 恐怖が近くにいるのではなく、恐怖が…

俺をやる、静けさをくれ/完全なるチェックメイト

ボビー・フィッシャーの評伝は読んでいたので*1、彼の奇人変人エピソードは確認作業でしかなく、求めるのはチェスを喰らうというより、チェスに喰いつかれた選ばれし者たちの姿であるから、望み通りのものが見られたと言ってよいだろう。 自由なアメリカでパ…