不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

アイ・イン・ザ・スカイ/見えてないから気にしない


 本作がどこまで現実の戦争の裏側を描いているのかはわからないけれど、見終わるや「勝手なもんだな」と吐き捨てたくなるほど戦争の内側を曝けだそうとする漆黒の意思で貫徹された一作であることは間違いなく、本質を炙り出している。
 現在ただいま西側諸国が戦っているのは国家や民族、宗教ではなく自分たちが構築したシステムに他ならず永遠に続くいたちごっこを行っていること、人の命は地球より重く平等だけど危険のパーセンテージという数字で計算されて合理化されること、「世界一安全な戦場」(副題)と言うが実際に行動する現場は命を張っているわけでまるで企業と下請け会社のような関係性は戦場でも通じているという皮肉、などなど随所に込められた一撃一撃に息が詰まる。
 何より絶望的なのは、一人の少女の行動が作戦の全てを左右し、彼女をめぐる決断が事の本質のように見えてしまうが、実は少女以外の周辺の人間たちには一瞥もせずに話が進んでいる事である(これは監督も自覚的だったのだろうか?)。また「イギリス人・アメリカ人がいる」事にあれだけこだわるのは、それ以外の人間は問題ではないのだと言っているのと同じであり、どの生命も等しい価値があるという建前がいかに張りぼてであるかを示している事にすら気づいていないのだ。
 軍人なり立てや政治家(文民)が流す涙は私たちはもう戻れない場所にいるのだという絶望であろうしそれが解消されることはなく、同じ年頃の娘がいるフランク・ベンソン中将(アラン・リックマン)の放った一言の底抜けの覚悟と冷徹さと共に、合理化された戦争は続いていく。もはや作戦が成功しようがしまいが抱えている徒労と絶望が軽くなる日、すなわち勝者のいない負け戦が終わる日は、遠い。