不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ザ・コンサルタント/いつか笑える日


 個人的に映画ベストを決める際に『デッドマン・ダウン』枠というものがある。注目作でも大作でもなく、かといって玄人向けの渋さもなく、それなりのキャストなのにいつの間にかシレッと公開されていて、だが期待せずに見るとなかなかの良作、というもので近年では『デッドマン・ダウン』が最たるものだったから勝手にそう呼ぶようになった。たとえば『ハミング・バード』もその一つ。昨年は本数を見なかったのもあってこの枠にふさわしい作品に出会えず、さて今年はどうだろうと思っていたら、一月早々に来た、堂々の『デッドマン・ダウン』枠に輝く秀逸な一品がこれである。
 「昼は表の顔(会計士)、夜は裏の顔(殺し屋)」というどっかで聞いた事のあるような設定で(パッと具体例は思いつかないけど)、底抜けの半笑い映画か、朴念仁の哀愁漂う映画か、とりあえずスクエアなベン・アフレックの演技を見る事になるのだろうと思っていたら、そのまま(理由ありの)スクエアな朴念仁に仕立て上げるシュワルツネッガーの『ターミネーター』方式(これまた勝手な命名)を起用し、いつの間にか口半開きでかたまった顔の微妙な変化に注目するようになってしまった。
 自閉症で、家族は訳ありで、裏稼業を持っているとなれば、世界に恨みを抱えて反撃の機会を伺っていてもおかしくないのに、このクリスチャン・ウルフ(アフレック)ときたら共に歩こうとする姿勢を崩さない。会計士として働き、顧客には精いっぱいのサービスをし、プライベートでのお付き合いもする。初対面の人ともぎこちないけど社交辞令もして、趣味(半分仕事)だってある。そのぎこちなさは他人からはおかしく見えてしまうが、生活の生真面目さとそこに漂う哀しみのバランスが絶妙であった。デイナ・カミングス(アナ・ケンドリック)とのロマンス(の寸止め)も、いわゆるヒーローとヒロインの典型的なパターンと言えるのに、妙にドキドキしてしまったし、残されたメモに切なさすら感じるのだった。
 そのバランスは裏稼業の方でも同様で、クリスの根底を貫くのはフェアネスであろうし、選択のポイントになっているのがいくつかの友情によるもので、痛みを知っている者、抱えている者たちが少なくとも今日より明日は善くあろうとする姿と、この複雑な世界で俺たちは決して一人ではないんだというささやかなメッセージが、見終わった後に涼やかな気持ちにさせてくれた。
 硬質なガンアクション、隙のない会話で構成されながら、さりげなく「金融と軍事と自閉症」という現代アメリカの要素を詰め込み、加えて親子や兄弟の絆まで盛り込んでいるのに過剰にはなっていない塩梅が抜群で、歪であってもそれが愛らしくさえ思えてくるから不思議な映画。それぞれが最後に浮かべる、うっすらとした笑顔は今年一番のやさしさを感じるものだった。