不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ドント・ブリーズ/凡人、盲を侮る


 それぞれの背景や動機付けなどを思いのほかきっちり描いているだけに、設定の妙やその場をぶん回すような勢いはなく、グルーヴもドライヴも効きが悪いため、「あの盲人がここに至るまでどうやったんだろう」という疑問だけは最後まで拭いきれずいたのはいささか残念だった。ただ、隔離されたところにある閉じられた真夜中の一軒家という舞台をフルに活かした地下から二階まで、玄関から勝手口までの高低・奥行、さらに盲人ならではの聴覚、嗅覚、触覚だけを頼りに獲物への距離を詰めていくゆったりとした手探りの恐怖と、直線に走ってくる犬という動きの使い分けが秀逸で飽きさせないし、中盤以降の、まさに息もつかせぬ畳み掛けはお見事。
 理不尽に奪われた者、自分だけにはない幸福を渇望する者が、それぞれ身勝手だけど真摯な理由をもって欲しているものを獲得するための闘いであり、「神の不在さえ受け入れれば人は何だってできる」という戯言は決して一人だけのものではない事をその勝者が見せつけてくれるが、欲していたものを手に入れてもなお寄る辺のなさが仄かに残っているのが印象的だった。
 ビビりなのでこのジャンルを気にするようになったのは最近になってからだが、恐怖や驚きを作り出すためや、そこから発する感情のデザインは創意工夫に飛んでおり、見応えがあるんだな、と今更ながら実感した。
 それにしても、ざっと思いつく限りでは少し前なら『ロボコップ』、最近だったら『イット・フォローズ』『8mile』『グラン・トリノ』『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』がデトロイトを舞台にしており、どれもこれも、形は違えどメメント・モリな香り漂う作品ばかりで、アメリカにとってデトロイトはどういう地なのか気になる。デトロイト・サバービア・サバイバル論を誰か書いてくれないだろうか。