不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2024 “SHINE ON”/俺たちと君たちの歌

 いきなり別のミュージシャンの話を書き始めるが、チバユウスケという人は物語を背負わなかった人だった。むろん歴史(history)はあるけれど物語(story)を自らの言葉にする事は半ば拒否していたのではないかとずっと思っていたが、『音楽と人』追悼インタビュー号を読んでみたら改めてそうだとわかる、歌詞の解釈含めて語らなかった。一方で吉井和哉という人は自覚しているのか無自覚なのか、幸か不幸か、歴史も物語(his-story)も全てを背負おうとするし、また背負わざるを得ない運命にいるように思う。名曲“JAM”の発売エピソード、結成記念日12月28日をいつまでも大切にしている事、活動休止・解散そして再集結、アニバーサリードームツアーの最後のドームが潰れ、そのリベンジがおそらくあの状況での世界で初めての大規模ライブであった事*1、ソロ活動からバンド再始動に被さった自らの病気……枚挙にいとまがなく、そしてそのほとんどをファンに曝け出してきた。
 
 無駄にチバの名前をあげたわけではなく、thee michelle gun elephantThe Yellow Monkeyには人を介した因縁があり、それは調べていただければすぐにわかると思うが、チバが亡くなる前に吉井和哉はソロの時にカバーした“世界の終わり”を配信している、何というタイミングだろう、そしてこの日のライブと同日、ARABAKI ROCK FEST.24にて吉井と仲が良い奥田民生がミッシェルのメンバーと共に“世界の終わり”をカバーしたという。これらもまた物語を背負ってしまう運命にいるからなのかと運命論が好きではない私ですらそんな事を考えてしまう。

 その一つの果てとしてたどり着いた今回のドームライブは、言うまでもなく何かしらを背負ってのものだったのは間違いない。冒頭に「大ヒットはないけど、代表曲を揃えた」と宣言したセットリストはたしかにシングル曲オンパレードで、総花ベストアルバム的セットリストは大味になるもので今回もその感は否めなかったものの、ザ・イエローモンキーというバンドの歴史をまさに物語るものであったし、新曲三曲の披露はもちろん、間に挟まれた“ROCK STAR”“ 人生の終わり (FOR GRANDMOTHER)”“SUCK OF LIFE”もこれぞという真髄の選曲であった。

 全体的に音が小さかったのはメンバーが歓声を聞きたかったからだろう(吉井は何度もイヤモニを外していた)、私を含めた五万人の声と歓声は美しいものであった。だが、中盤から吉井の声はかなりしんどそうになってきて、“SUCK”の時にはこれで本編を終えてセットリストを短縮する事もやむを得ないのではないかとすら(勝手に)思っていたのに、そのまま“LOVE LOVE SHOW”に繋げたのは驚いた。コール&レスポンスを巧みに使っていたのはさすが百戦錬磨の手腕。それだけ辛かったにもかかわらず、後で聞いたところによるとダブルアンコールの“Welcome to my doghouse”はその場でやる事を決めたというのだから、《The Yellow Monkeyというバンドは、ステージ上では完璧なファンタジーとして君臨していたけれど、その裏で彼らがそのために肉体と魂を削っている》*2のだと強く感じた。

 ライブ単体として見れば、率直に言ってバンドの演奏はアンサンブルとしてはふわふわして安定感がなくやや精彩を欠いていたと思う。だが、万全ではない吉井を最大限バックアップしようとする気遣いが各メンバーからはっきりと見てとれた。ギターソロパフォーマンスはこれまでにもあったものの、ドラムソロ、ベースソロのパフォーマンスまで入れ込んだのは吉井の喉の負担を減らすためだったはずで、「吉井を支えきれなかった」と解散時に言った後悔を繰り返すまいとする覚悟と気迫がビシバシと伝わってきたし、個々のパフォーマンスはよかったと思う。

 2020年の呪いを解く“バラ色の日々”、万感を込めたであろう“人生の終わり”(事前のドキュメントフィルムはあそこまで闘病の裏側を明らかにするとは思わずたじろくほどであったが、そういう曝け出す姿こそが彼らで、それが好きなんだよなぁ)、そしてやはり2020年に捧げた祈りに応える再びこの世界を真っ赤に染めた“JAM”が白眉。個人的にはまさかのオープニング“バラ色の日々”とMVでの初披露曲”復活の日“がいまの自分に突き刺さるもので(後者に至っては、吉井と年齢が近く、同じバンドボーカルで、決して近くはないが遠くもない縁があったチバとBUCK-TICK櫻井敦司の事も頭に浮かんだ)、その歌詞と音の響きにそのまま倒れてしまいたくなった。あの曲を音源で聴くのが本当に楽しみだ。

 それなりに長い年月、吉井和哉の姿を見続けてきたが、これほどうれしいたのしいだいすきしあわせと全身から発している姿は初めて見たと思う。2001年、同じ東京ドームで行われた活動休止(実質の解散)ライブの最後のMCで虚しく響いた「我がイエローモンキーは永久に不滅です!」が、四半世紀近く経った同じ場所で同じように言って、これほど深く幸せな響きになると誰が思っただろう。本調子までの道のりは遠く険しく、今回も大変だったろうけど、この日この場所この時間にあなたたちと過ごし、一緒に歌えて、こちらもうれしいたのしいだいすきしあわせでした。この時間がなるべく長く続きますよう。待っています、愛してるよ。