港千尋『愛の小さな歴史』を読んだ。映画『ヒロシマ・モナムール』(1959年、監督/アラン・レネ、脚本/マルグリット・デュラス、邦題『二十四時間の情事』)の論考を主軸に、主演女優エマニュエル・リヴァが撮影した写真(『HIROSHIMA 1958』)を媒介にして写真の本質へと迫る港千尋の写真論。
『ヒロシマ・モナムール』も未見だし、写真集『HIROSHIMA 1958』も見ていないのにこれを読んでいいのかとは思ったが、港氏の文章に惹きつけられて、手にとってしまった。端正で、凛として、それでいて熱のこもった文章に、前に読んだ『注視者の日記』同様、静かに興奮した。中でも、分析ではなく、半ばエッセイのような前書き、後書きがすばらしい。
正直言って、まだ理解しきれていないので、映画を見たり、写真集を眺めたりできたら、また読み返したい。
カメラは掌のなかの夜である。
箱のかたちをした闇、手に持って運ぶことのできる、真昼のなかの夜である。
その夜は、昼を選ぶための夜でもある。夜が使うのは無際限にひろがっている光の混沌をガラスの漏斗に流し込み、その先端に現れる一滴の光を選ぶための闇の吸引力である。それがうまくゆくときは針の穴をとおして、遠くの山塊すら夜のなかへもたらされる。昼の事物はこの夜のなかで、新たな配置を与えられ、昼の時間から解放される。
しかしそのとき夜はもうひとつの夜をつくりだす。それは夜自身が見る夢であり、夜自身の記憶である。
- 作者: 港千尋
- 出版社/メーカー: インスクリプト
- 発売日: 2009/12/01
- メディア: 単行本
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