不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

「ライブハウス武道館へようこそ」

 エレファントカシマシ新春ライブに行って参りました。ハコは日本武道館ッ! 昨年は行けなかったので2年ぶりの新春ライブ。エレカシの武道館は否が応でも気分が盛り上がってしまう。
 珍しくオープニング演出があり、ベートーヴェンの“月光”が聞こえた瞬間、The Yellow Monkey“Morality Slave”が始まる気がしてしまい、一瞬何のライブ来ているのか混乱してしまった。エレカシのライブで裸で棒に縛られた目隠し女性が出てきたら、「宮本、何があった!?」どころの騒ぎじゃないよな。
 そんな勝手な思いをよそに(当たり前だ)、優雅な音を切り刻むようにドラム音が鳴り響く。エレカシでドラムで始まると言えば、そう“奴隷天国”しかない。新年オープニングナンバーとしてはふさわしい、と思うや否や、舞台裏の幕が開かれて出てきたのは14人編成のストリングチーム。えええ、“奴隷天国”にストリングスッ!? あ、合ってない……合ってないけど、めっちゃおもしろいッ!
 というわけで、メンバー4人にいつもの蔦谷好位置ヒラマミキオに加え、曲によってはストリングスも入るという構成の武道館公演は、新譜『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』同様、しっちゃかめっちゃかなのに、不思議な統一感があるライブだった。
 新しい事をやったのだろう、ややまとまりには欠けていたものの、圧倒的な熱量と大迫力のパフォーマンス。宮本浩次先生の喉は、高音が出にくく、やや窮屈そうに歌っていたのがちょっと残念ではあったが、時折、覚醒し、その時は「神の声ッ!」と感動した。
「たくさん曲を用意してきました!」とは宮本がよく言うセリフで、エレカシのライブはいつもたっぷりとやってくれるのでうれしいのだが、今回に限って言えば、先生、用意しすぎです。いや、もちろんうれしいんだけど、なんせ3時間30曲である。本編で「まだやんのか?」、アンコールで「長いなー」、ダブルアンコールで出てきた時には「終わんの、このライブ?」などと思ってしまうほどだった。こんなことを思うなんて、なんて贅沢な話だろう。
 しかし、特筆すべきは、3時間30曲を構成していた曲群のほとんどが2007年以降のものだった事だ。新曲をやるのは当然にしても、“悲しみの果て”などやらなかったのは意外と言えば意外だ。言うまでもなくエレファントカシマシは結成30年、デビュー23年の大ベテランバンドである。そんなバンドが、いわゆる「往年の名曲」をやらず、あくまでも現在進行形を、「今」のエレファントカシマシを体現している。まさに「新年の幕開け」にふさわしいライブと言える。
 個人的に感動したのは、ユーミンのカバー“翳りゆく部屋”と、中盤に「こないだ聴いて自分で感動しちゃった」というMCから始まった“赤い薔薇”。うおおー、一度はライブで聞きたかった曲ッ! いい曲だなー。そりゃ感動もするよ。
 本編終盤はほとんどストリングスチームも参加して、様々な曲で聞かせてくれる。ちょっと意外な選曲“シャララ”、CDでは重たかった“明日への記憶”もここではかなりよかったし、“笑顔の未来へ”“いつか見た夢を”の疾走ナンバー連発は燃えた。
 “桜の花、舞い上がる道を”を歌いあげて、無事に本編終了、と誰もが思ったところに、暗転して怪しげな雰囲気。「チュンチュン……」という聞き覚えのある雀の声。そう、SE曲“朝”だ。ということは……ステージ左右に設置されていたスクリーンに日食の映像が浮かんで、硬いギターの音が聞こえてくる。
 宮本曰く「ちゃぶ台をひっくり返す曲」“悪魔メフィスト”!! 歌うというか、咆哮というか、地鳴りというか、轟音を地の底から湧き起こすような宮本の声と、殴りかかるようなバンドの演奏。音程もリズムも歌詞もグッチャグッチャのまま突き進む。うわー、かっこいー。宮本、神がかり、もとい悪魔がかりのパフォーマンスッ! これを(繰り返しになるが)20年以上のキャリアを持つ44歳のロックバンドがやるってんだから、すさまじいにもほどがある。危うく本編の記憶が忘却の彼方に押しやられそうだった。
 ちょっと放心状態で本編終了。すげーもん見たな……。
 アンコールは“平成理想主義”からスタート。日本人を挑発するような歌詞。《平成理想主義の人 いつ起きんの? いつ目醒めるの?》。そうかと思えば、渋い名曲“シグナル”でグッとさせる。《どのみち俺は 道半ばに命燃やし尽くす その日まで咲きつづける 花となれ》。
 明るい“四月の風”、そして“俺たちの明日”で武道館中のライトがついて、まさに大団円。いやー、よかったよかった。
 と勝手に思っていたら、客電がつかない。ほっこりしているこちらをぶん殴るように始まったのは“ガストロンジャー”! 闘争モードに引きずり戻され、「こうなりゃお互い体力勝負だ!」と宮本の言葉と共に“ファインティングマン”。力の限り絶叫。「ベイビー! ファイティングマン! 全員ファイティングマン!」。
 メンバーふらふらだったので、もうないだろうと思ったが、客電はまだつかない。再び登場し、“待つ男”ッ! 最近のお気に入りの〆曲だろうか。終盤にかけて圧巻のパフォーマンスの中でも圧巻。残る全てを吐き出す。
「また会おう! いい1年がやってくるぜエヴリバディ!」と言って宮本とメンバーは去っていった。いい一年の幕開けだった。


《俺の心に灯を灯す 熱い思い探す旅路さ
 旅に出るのさ
 空の太陽 俺の行く先照らせsunshine》(“旅”)

set list
01.奴隷天国
02.今はここが真ん中さ!
03.脱コミュニケーション
04.moonlight magic
05.旅
06.九月の雨
07.翳りゆく部屋
08.歩く男
09.珍奇男
10.赤き空よ!
11.夜の道
12.赤い薔薇
13.幸せよ、この指にとまれ
14.ハナウタ〜遠い昔からの物語〜
15.彼女は買い物の帰り道
16.ネヴァーエンディングストーリー
17.シャララ
18.明日への記憶
19.笑顔の未来へ
20.いつか見た夢を
21.桜の花、舞い上がる道を
22.朝
23.悪魔メフィスト


en.01
01.平成理想主義
02.シグナル
03.四月の風
04.俺たちの明日
05.ガストロンジャー
06.ファイティングマン


en.02
01.待つ男