北野武監督、待望の最新作が戦国時代の信長の跡目争いと聞いて期待と不安が半々であった。時代劇としては『座頭市』があるもののあれはヒーロー活劇であり、今作は群衆劇だ。北野武は「過剰に省く」か「過剰に入れ込む」という癖があり、おそらく後者であろうと予想はしていた。果たせるかな、名無しの登場人物までハマりまくる配役の妙、どの役者も熱演をし、撮影も演出もキマっていて、戦国時代の大ネタ小ネタ、たけし自身のボケ等々、どれもこれも悪くないどころがなかなか粒揃いのはずなのに、作品を通して見ると一人ひとりの人物(キャラ)や一つひとつのエピソードが組み合わさって立体的になっておらず、どうにもハリボテ感を覚える出来映え。二時間ほどの予告編を延々と見ている気分になってしまった、というのが正直な感想だ。実際、予告でいいシーン流しすぎていた、つまりは予告以上のシーンがなかった。構想三十年の間に他の戦国時代劇がいくつも作られ、また新たな解釈も生まれたのもあり、今作でたけしならではの斬新な解釈は見つけられなかった。男色要素も驚きはないし、それほど効いてない。
二、三作目は血肉を通わせ見事な自分の作品に仕立てていたが一作目の『アウトレイジ』は「ヤクザごっこ」に過ぎなかったが、今作は「戦国時代劇ごっこ」と言えるのかもしれない、同じように続編ではなくとも次にまた戦国時代劇を撮ったら見事なものになる可能性はある、やる気があるのか、撮れるのかというのは置くにせよ。思いついたネタを入れまくったせいで散漫となっており、たとえば岸辺一徳演じる千利休(ハマり過ぎ!)が茶室を舞台に、信長、秀吉、光秀、家康の権力争いストラグルを差配するとか、抜け忍の曽呂利新左衛門(木村祐一、こちらもハマり役)があちこち行く事で狂言回しにするなど一本筋を通す工夫が欲しい。
その新左衛門の「みんなアホか」というセリフが全てで、天下というあってないような概念を巡って、大の男どもが命をかけて騙し合い殺し合う様を、ある種のブラックコメディとして乾いた笑いを誘おうとした意図はかなりおもしろい(だから女性はほんの少ししか出てこない)。「全員悪人」の戦国アウトレイジではなく、「全員バカか空っぽ」という戦国みんな〜やってるかい!をシリアストーンで撮ったと見るべきなのかもしれない。「何してんだろ」と呆れながら。
妙に酷評になってしまったが楽しんだよ、本当に。期待が大きいぶんの文句だと思っていただきたい。この豪華キャストで(いまの武だから揃える事ができた布陣だろう)、この規模の戦国時代劇はなかなかないし、随所にある武ならではのブラックユーモアと引き寄せられるショットは見応え十分です。ただ、やっぱり北野武映画には「省略」と「跳躍」が欲しかったのが正直なところでした。最後に秀吉役のたけしは、さすがにちょっと重かった、年齢的にも演技としても貫禄としても。