不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

伊藤彰彦『仁義なきヤクザ映画史』/日本の裏にはヤクザがいる

 『映画の奈落』『無冠の男 松方弘樹伝』などの伊藤彰彦による、ヤクザの語源から最近のヤクザ映画までを分析する事で透けて見えてくる日本近現代裏面史。取材もしっかりしていて、筆も乗っていて、抜群におもしろくて、労作にして名著ではないか。新谷学編集長の『文藝春秋』が残した一番よい企画かも、別に『文藝春秋』を毎月熟読しているわけではないのだが。全章濃厚でインタビューに限って言えば後半の小林旭中島貞夫はもちろんの事だが、何より短いながらも加賀まりこがいい、斜に構えながら正面を見据えてズバリ急所をつく。

 過去の作品に比べるとどうしても最近の『すばらしき世界』や『狐狼の血』の証言やエピソードは薄い、私は評価の高い『すばらしき世界』に対しては辛口なのもあるが。キタニストとしては『アウトレイジ最終章』の韓国人フィクサーの話をもっと掘り下げてほしかったが、浅めで関係者の証言もないのは残念だった、それとも武その他に依頼したけど断られたのかな。『文藝春秋』からの依頼なら受ける気もするが。ともあれ、時代が変わり、ヤクザも映画界も、そして観客も変わったのだから同じようなヤクザ映画を望む事はできないけれど、熱量だけでもそこに追いついてほしいものだ、『アウトレイジ』シリーズがギリギリ届いていると思う。とりあえず本に出てきたヤクザ映画を見たくなったのだからいい本だ。

 余談ながら、過去や専門についての解像度が高いのに、最近や専門外だと低くなるものなのかな。伊藤氏も『パチンコ』のドラマを《メディアは黙殺した》と書くが、昨年段階でシェア3%のApple TV +での独占配信では話題にはなかなかならないだろう。日韓の歴史の眼差しや映画の差を論じるのはいいけどさ。