カート・アンダーセン『ファンタジーランド 狂気の幻想のアメリカ500年史』(東洋経済新報社、山田美明・山田文訳、上下巻)。「ホモ・サピエンスは『想像上の秩序』、すなわち嘘とそれを信頼する事で文明を築いてきた」(『サピエンス全史』)わけだが、さらにそこから「信じる(信じたい)ものを信じる」人たちが建国したのがアメリカであり、そのアメリカでの信仰の対象=ファンタジーの歴史500年ピルグリム・ファーザーズ、ピューリタンから始まりフェイクニュースまでをまとめた力作。上巻はひたすらキリスト教とそこから派生した宗教についてを描いていて興味深いが、下巻も概ねそればかりで、できれば80年代からの創作物(映画、コミック、ゲームなど)やネット、SNSにもっと触れて欲しかった。あまり詳しくないのだろう、WWE(プロレス)についての考察はかなり浅めだったし。終盤の今後どうすべきかというパートは、まさにファンタジーであるトランプ政権下で切実な問いかけになっているわけだが、こうすればいいのだ、きっとよくなる、というのもある種のファンタジーなのではないか、と少し皮肉に思ってしまった。というより、人類はみなファンタジーの中にいるし、ファンタジーを使っていると言うべきか。たとえば天皇やら神社やら寺やらその他もろもろいまだにファンタジー全開の日本がよい例ではないか。たぶんアメリカ以上にファンタジーランド。
たまたま併読していた阿部謹也『ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』(ちくま文庫)も同タイミングで読み終えた。タイトル通り皆さんご存知の寓話「ハーメルンの笛吹き男」について論じた一冊。この話は実話であり、かつて130人の子供が連れ去られた事件が元になっていた、ではその事件はどんなものなのか、そして何故このような寓話になったのかを資料を中心に徹底分析。中世ヨーロッパの一地方の歴史を論じた中盤は正直かったるくて仕方がなかったが、謎解きのような感覚で読めて、おもしろかった。上記本と繋げてしまうと、この話は事実を元にしてファンタジーとして作り上げていった、と言えるだろう。
主語が大きくなるが、人類というものはつくづく嘘=ファンタジー=空想=フィクション=虚構が好きだし、その上に立っている。歴史もそうだし寓話もそうだし、自分の記憶だってあてにならない。先日そういう例を見た、民主党政権の話をしていたのだが事実と時系列がゴッチャになっていた、思い込んでいるのだ。たまたま最近見たので取り上げただけで他意はない(といちいち注釈を入れるのもなんだけど)。真実なんてものは、あっても泡のごとく消え去っていく。私たちは虚構の中で生まれ、虚構と共に死んでいき、新たな虚構になる、そんな気がしている。

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