不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

渋谷は遠くになりにけり

 誰しも好きな本屋の話をする時があると思うが(ない? そんな事はないだろ)、現在H&Mがある場所にそびえ立っていたブックファースト渋谷店は、俺の好きな本屋ベスト5に入っている。品揃え、棚の作り方がいいというよりも、何となく見やすかったのだ。波長が合ったといえばいいか。一番上の漫画のフロアから順番に一つずつ下に降りて、全フロアを流していくのがお決まりのパターンだった。
 立ち退くと聞いた時は寂しかったが、しかしあれだけでかいテナントとなれば家賃も高いだろうから、まぁしゃあないとも思った。現在の場所に移転してからも、渋谷の地下鉄が通勤の乗り換えだったのでよく行っていた。引っ越してからはさすがに行く機会は減ったものの、渋谷に行けば必ずといっていいほど覗いていた。
 俺にとってブックファーストはイコール渋谷だった。紀伊國屋がイコール新宿、ジュンク堂がイコール池袋なのと同じようなものだ。この感覚がわかる方はいるだろうか。たぶんいると思う。ブックファースト自体がなくなるわけではない。たとえば新宿のブックファーストは広くて充実している。だが、「ブックファーストが渋谷からなくなる」、これはやはり、ちょっとした事件のように感じてしまったのだ。
 俺が過ごした渋谷、つまりシネマライズやシネクイントがあって、でかいブックファーストが健在で、そして何よりHMVがあった渋谷はもはや消えかかっている。HMVの上には青山ブックセンターがあったんだぜ。そこからブックファーストと同じように一つひとつフロアを流しながら降りていったんだ。まぁさすがにこのABCは人が全然いなかったので、潰れるのではと思っていたけれども。
 いや、わかっている。ここでも再三書いていると思うが、街というものは変わっていくものだ。渋谷の魅力が減ったわけではない。映画館ならイメージフォーラムユーロスペースヒューマントラストシネマ渋谷、シネパレス渋谷、TOHOシネマズ渋谷などまだまだ盛況だ。本屋は丸善ジュンク紀伊國屋啓文堂と大きな店が三つもある。音楽だってtower recordsレコファンは健在だし、ライブハウスもたくさんある。俺の渋谷があるように、それぞれの渋谷があって、これからはまた新しい人の渋谷になっていく。当然だ。わかっている。わかっているんだけれども……。
 『トレインスポッティング』はまさに俺が過ごした渋谷こと96年にシネマライズで公開された。あれから20年経った彼らの姿を見たのは先日で、20年の間にこちらもいろいろ変わっていて、そのいろいろの中に渋谷の街もあるのだろう。何だかうまく言葉が出てこないので感想が書けなかったが、いまなら書けるような気がする。そんなブックファースト渋谷閉店のニュースだった。