不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

私もあなたも紙の民

 サルバドール・プラセンシア『紙の民』(白水社、藤井光訳)。たしか昨年末に購入したのだが、年明けからのバタバタでなかなか手が出せず、先日ようやく読む事ができた。高い評価を得ているという噂に違わずおもしろい。何よりこれほど奇想天外な小説もめったにあるまい。メタ構造まで含んだ群像劇で、どれもこれも完成度がえらい高くてグイグイと読ませる。プロレス者としてはやはりサントスが気になりました。まさかこういう小説で初代タイガーマスクことサトル・サヤマが出てくるとは思わなんだ! 佐山聡本人は、まぁ知らないだろうなぁ。
 どこまでも自由な組版・レイアウトは一見読みづらそうなんだけど、実際読み始めれば親切設計ですいすいいくし、キテレツを狙ったのではなくきちんと効果的に機能しており、豪快奔放ではなく細部まで神経が行き届いているのが憎い。後半の畳みかけにはゾクゾクしました。土星の正体もさることながら、ある事があって小説そのものを最初から「やり直す」くだりには、思わず口から感嘆の声がこぼれたよ。先に知ってしまう最後の一文にたどり着いた時の充足感と寂寥感は一級品でした。
 他の名前を出すのも何だが、個人的にはイメージの羅列や広がりから野田秀樹の、特に夢の遊民社時代の作品の感覚に近いものがありました。
 それで、プラセンシアの第二作はいまどんな状況なんでしょうかね?

紙の民

紙の民