ケン・リュウ『紙の動物園』(早川書房、古沢嘉通訳)。本書は「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」の一冊らしいが、☆て……まぁそんな事はどうでもいいとして。
二日前の日記に書いたように、冒頭の表題作でやられたので逆にその後が不安だったが、杞憂だった。それどころか感想を書けないのではないかと思うほどよかった。センチメンタルな小説は苦手な方だったのだが、冷ややかな部分がちゃんとあって感傷に沈まないようになっている。15作入っている短篇集で、ある意味で短篇という形式の妙によるところが大きいけれど、読後に残る余韻がもうたまらない。
テクノロジーの速さに(またはファンタジーの遅さに)心がついていかない人類をニヒルにもシニカルにも見ず、一押しというほどではないけれど、そっと背中に手を添えて、共に前を向いている。文化も技術も歴史(≒物語)も信じている視線がいい。また「あるかもしれない近未来」だけでなく、「あったかもしれない現在(過去)」も描いており、それらが実際のアメリカ、中国、日本、台湾といった国々が舞台となっているのもよかった。国や文化への理解もあって、著者のクレバー度合いがよくわかる。こういう描き方があるのかと感心した。ある一篇への関連で『ヨコハマ買い出し紀行』の名が出てきたのには驚いたが、たしかに似た空気だ。
関連で言及されているテッド・チャンは未読なので、こちらも読んでみたい。というか、本書以外の短編も読みたい。そして、長編がどんなものなのか、気になる。追いかける作家が一人増えた、喜ばしい事だ。
- 作者: ケン・リュウ,古沢嘉通,牧野千穂
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/04/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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