不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

決断は自分のもの

 ベン・H・ウィンタース『カウントダウン・シティ』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ上野元美訳)。前作『地上最後の刑事』からさらに時が流れ、惑星衝突まで80日。諦観で満ちた停滞した(しかし進行する)世界で、主人公パレスは失踪した男を探す。もう彼は刑事ではなく、仕事でもないのに何故依頼された人探しを続けるのか。全ての行為に「何故?」が問われ、探す理由は自分でもわからないけど、それでも探す。
 パレスは一見自分を律しているかのように見えるが、実は彼もまた何かに囚われている。過去に、家族に、自分自身に。疲れ切った心身を抱えてもなお、彼は前へ、先がない前へと行くのか。「終末の風景」を描くであろう最終作がいまから楽しみです。劇中の予想通り惑星が衝突しても、またしなかったとしても、「終末」にい続ける事になる人類にとって世界で生きるとは何なのか、というジャンルの枠を超えた哲学的な問いかけになってくると思うので、どんな答えが描かれるのかと、不安と期待でいっぱいになりながら、邦訳を待つ。
 余談かもしれないが、下に引用したセリフをこの時期に読んで、ドキッとした事も添えておきたい。極限状態でのこのパレスの言葉を、心に刻んでおこうと思った。

小惑星のせいで、多くの人間がしたように、おれもつらい決断をせざるをえなかったと言ってくれ。マーサなら意味をわかってくれるだろう」
「ちがう」私は首を振る。
「ちがう?」
「お言葉ですが、小惑星のせいであなたは奥さんのもとを去ったのではない。小惑星は、だれにもなにもさせていない。あんなの、宇宙を飛んでいるただの大きな岩のかたまりですよ。だれがなにしようと、決断はその人のものです」

カウントダウン・シティ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

カウントダウン・シティ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)