不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

日本と電車と男

 磯崎健一郎『電車道』(新潮社)。待望の磯崎憲一郎の新作は電鉄会社を築いた男の一代記にして、一つの日本百年史である。個人、生活、文明、国家、戦争などが網の目のように折り重なって歴史が綴られていく。端正な筆致や「私」という存在の欠片、時間の捉え方など秀逸で読ませる。やっぱり好きですね、この人は。混沌やダイナミックさが薄めなのがちと残念ではあるが。『電車道』という殺風景なタイトルも、非常に中身とマッチしていると思った。著者が好きなガルシア=マルケス小島信夫に近い香りがした、と偉そうに言うほど知らないんだけど。著者はたしか、先を考えず、決めずに書くとインタビューで言っていたと記憶しているが、史実が背骨になっている本書もそんな感じで書いたのだろうか。

電車道

電車道