不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ドライヴ・ユー・ギルティ

 リンカーン弁護士』(監督/ブラッド・ファーマン、出演/マシュー・マコノヒーライアン・フィリップマリサ・トメイウィリアム・H・メイシー

 原作がマイクル・コナリーだしな、とほとんど読んだ事もないのにその一点だけで選んで見に行ったわけだが、これは思いのほか秀逸な出来栄え。絶妙な緩急をつけたスピード感からなる快適なテンポ、ビシッときめた隙の無さ、醸しだす大人の空気、何より適材適所の配役と彼・彼女らのいい顔っぷりは今年一番の仕上がりであった。オープニングからしてなかなかに軽妙洒脱、カットやズームのリズム、映像のゆらぎなどやりすぎない程度の演出も効果的だ。
 俺も結構なクソだけどオマエはたいがいにせなあかんよと、毒を以て毒を制す、「ストリートでも生きられる」弁護士がアメリカンサイコを叩きのめす。自分自身の戦場をわきまえながら、正攻法裏技全てを尽す手加減抜きのバトルは見ていて爽快。伏線の張り方、キーの散らし方、ネタの落とし方と実によく練られていて、ハードボイルドなセリフ回しもキザ過ぎずにニヤけられる程度でお好きな人にはたまらない。サイコの内面から現代アメリカの闇を云々かんぬんなどと言うところまではいかず、サイコはサイコで罪は罪、以上です終わり、という潔さも心地よい。
 何より見ごたえがあるのは人物描写で、メインキャストから脇役までしっかり「人間」であった。いけすかないぼんぼんサイコをライアン・フィリップが、長髪口ひげのシニカル賢人をウィリアム・H・メイシーが、色気と年齢と覚悟と志を存分に見せつける元妻をマリサ・トメイが巧みに演じている。運転手役の黒人だけ名前がわからないのだが、運転手以上の仕事はしない代わりに絶妙のタイミングでひと言をかけて、主従におけるお互いの信頼度がよくわかって、その関係や距離感がいい。
 そして彼らを束ねるミックを演じたマシュー・マコノヒーは、俺はこれまで全然好きではなかったのだが、この作品で一片に虜になってしまった。軽佻浮薄、金にうるさく辣腕をふるうようで意外と面倒見がよくて、内面に眠る静かな恐怖、息づく倫理観、正義とは違う己の仁義を確かに持つ。過去は忘れず拘るし、未来だって投げ出さず、だからいま戦いますという姿勢は好感が湧くし、右手で握手、左手で拳を握り、笑顔で歯を食いしばりながら死地を切り開いていく背中に漂う哀愁に酔いしれる事この上なし。
 監督のブラッド・ファーマンはこれが二作目の監督作だそうで(一作目は日本未公開)、いやはや、これから注目すべき監督が一人発見、満足度で言うなら今年一番でした。