不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

どうせやるなら皆殺し

 三日くらい前に作品の存在を知って、ロック様が主演、脇をビリー・ボブ・ソーントントム・ベレンジャーなどが硬めた復讐ハードアクション映画と聞き、近場で上映されているのが歌舞伎町にあるシネマスクエアとうきゅうとなれば、もはや舞台は整ったと言わんばかりに早速足を伸ばした次第。
 『ファースター 怒りの銃弾』を見た。監督、ジョージ・ティルマン・Jr。出演、ドウェイン・ジョンソンビリー・ボブ・ソーントン、オリヴァー・ジャクソン=コーエン、カーラ・グギーノトム・ベレンジャー

 ムショを出るなりロック様がおもむろにいづこかへ走り出すオープニングでちょっぴり心配になったものの、トレーラーで感じたB級くささはほとんどない手堅いノワール映画になっていて、乾いた感情、一発の重いガンファイト、渋いカーアクション、抑え気味の感情の機微で色づけされた思わぬ収穫となった一品。
 復讐を誓うドライバー(ドウェイン)、追う刑事(ビリー)、ドライバーを狙う殺し屋(オリヴァー)の三者のドラマが一直線に連なっており、どれも斬新さや派手さはないもののスパイスが効いていて、映画全体がツイストしている。
 サスペンスがあるわけでも、友情が生まれるわけでも、愛情が生まれるわけでもなく(ある事はあるが)、殺し屋のドライバー評と同じく「恐れず、迷わず、止まらない」、最短距離で映画は進み、いきなりの第一の標的殺しに虚をつかれ、そういった大胆な省略や溜めのなさ、スローモーションと少し凝ったカメラアングル、印象的なショットなどを巧みに織り交ぜて見事に緩急と新鮮さを生み、そういった意味ではなかなかしたたかな映画と言える。
 ザ・ロックことドウェイン・ジョンソンは、いくつか映画を見てきたがリング上とは違い演技はイマイチ硬さが抜けないなーといつも思っているのだが本作でもそれは変わらず、にもかかわらず強い眼力と佇まいで全部を表現し背負っていったのには恐れ入った。特に眼で、怒り、迷い、赦し、揺らぎをきちんと表現できていて、それがいい演技といえばいい演技。いつ眉毛が上がるんだろうかとも思っちゃったけれど。それにしてもアンタがドライバーって、その身体ならむしろ前線に立った方が強盗もうまくいくんじゃないですかね。それにリボルバーじゃなくて拳の方が強そうです。歩いているシーンが完全に入場シーンなのには笑っちゃったよ。
 ビリー・ボブ・ソーントンはだらしない刑事を好演していて、不精髭にパジャマみたいなシャツ、妙なヘアースタイルとステキな低音ボイスと共に堕ちていく様はさすがの一言。そこに殺し屋が加わってくるのだが、この殺し屋が妙で、無駄に己のドラマをしょいこんで勝手に自分の物語を進行させるから笑ってしまい、しかもそれがちょっと気になる物語なのがむかつくぜ。イケメンっぷりも微妙なものだし。
 そう、この映画には美男も美女もいなくて、みんなちょこっとばかし不細工というのがまた絶妙な味わいを醸し出している。だが、彼・彼女らキャラクターの人物設定や行動、言動をおろそかにはせず、軽重関係なく的確かつ考え抜いて配置されており、荒唐無稽で下手すれば底が抜ける映画をがっちりと支えている。その辺の配慮はすばらしかった。
 メインどころの三者も、それぞれの過去や複雑な生い立ちや抱えたトラウマは表面を見せる程度で、あとは邪魔にならないように脇に添えられ、あくまで物語が現在進行形の彼らの「罪」と「赦し」の問いかけに昇華されていく脚本は、説明過多になりがちな昨今の映画の中ではひときわ見事なものだった。
 とはいえ、ラストの展開は予想できたものの、その強引さに思わずつっこみかけてしまうし、「赦し」と十字架はなんだったのかと思えば、あんなネタを最後に挟みこんだりして、この映画の立ち位置や視線はどこへ向いているのかと何やらちょっとクラクラしてしまったよ。改めて言うが、なかなかしたたかな映画だった。
 この出来ならもうちょっと注目されてもいいと思うが、このメンツじゃ仕方ないのかな。もし新宿ミラノに『パイレーツ・オブ・カリビアン』を見に来たけど満席だった時は、隣の本作を見ても損はないよと言っておこう。