黒澤関連本が続く。橋本忍『複眼の映像 私と黒澤明』を読んだ。脚本家の目線で、黒澤映画の共同脚本、「ライター先行形」から「いきなり決定稿」への変遷が語られている。『羅生門』誕生秘話、『生きる』が少しずつ出来上がっていく過程など、めっぽうおもしろい。脚本家ならではのシナリオ調、芝居がかった文体が、やや鼻についたけれど。
たとえば『七人の侍』の誕生の瞬間。
私は思わずドキッとして、本木荘二郎に訊き返した。
「百姓が侍を雇う?」
「そうだよ」
私は瞬間に黒澤さんを見た。黒澤さんも強い衝撃で私を見ている。二人は顔を見合し――無意識に強く頷き合った。
「出来たな」
黒澤さんが低くズシリという。
「出来ました」
黒澤以外では師匠・伊丹万作と野村芳太郎とのやり取りがいい。
伊丹万作の原作物についての一言。
「この世には殺したりはせず、一緒に心中しなければいけない原作もあるんだよ」
野村芳太郎と『ジョーズ』を見て、野村が「全部OKカットで繋いでいます」とビシッと一言ずばり。そして、著者の「黒澤さんにとって、私……橋本忍って、いったいなんだったんでしょう」という問いの答え。
「黒澤さんにとって、橋本忍は会ってはいけない男だったんです」
たまんねぇな、アンタら。
- 作者: 橋本忍
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