不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

自問自答もいいけど


 劔岳 点の記』を見た。監督・脚本、木村大作。出演、浅野忠信香川照之松田龍平仲村トオル宮崎あおい小澤征悦、井川比佐志、國村隼役所広司。原作は新田次郎
 明治四十年、日本地図完成のために立山連峰劔岳への登頂に挑む、陸軍測量手の柴崎芳太郎ら七人の測量隊の話。「山に登って、地図を作る」、ただそれだけの映画。
 ベテランカメラマン、木村大作が満を持して、なのかどうかは知らないが、渾身の力をこめて挑んだ初監督作。日本の「超大作」は金はかけるが中身がないものが多いのだが、久しぶりに「さすが」と思える作品となった。木村大作の言うところ「本物の映画」と言える。
 オールロケの撮影がすばらしい。大自然なんて素人が撮っても美しく撮れてしまうものだが、だからこそ自然風景は退屈なものになりがちである。しかし、さすが木村大作大自然だろうか町中だろうが、同じ様に細部にまで眼を配り、絶妙の構図、タイミングを使い、劔岳雄大さ、美しさ、恐ろしさを充分にカメラで写し撮り、その迫力に圧倒される。大自然の中、人間の小ささと、と同時に兼ね備えた「生きよう(=登ろう)」という力がこちらに伝わってくる。
 俳優も説得力のある演技。実際に山に登っているので、半ば演技・半ば本気の言葉や動作だ。中でも香川照之はお見事。言葉少ない、山に住む民の姿を淡々と演ずる。
 細部までこだわり、全体もまとまっている。良質な映画だ。ただ、最後の宮崎あおい役所広司の独白だけは余計だった。まさに蛇足。
 なぜ山に登るのか。登山者に聞けば「そこに山があるから」と、理由になってんだかなってないんだかよくわからんが、とにかく凄い自信の一言が返ってくる。劇中でも柴崎たちは自問自答を繰り返しているが、結局はこの一言に集約されていると思う。「そこに山があるから」(「そこに、まだ地図になっていない土地があるから」)。ただそれだけの為に命を賭ける。
 木村大作が描きたかったのも、この一言だ。なぜ、この映画を撮ったのか。温めていた企画なのかもしれないが、いまこの作品を作ろうと思ったのかは、よくわからない。しかし、そんな疑問を吹き飛ばすような力が作品にはあった。
 しゃらくせぇ、俺は撮りたいから撮るんだ、文句あっか? 「感動できる」「泣ける」「熱い」「ヤンキーだらけ」「キャラ立ちもの」「自分探し」? ちっさいんだよ、オマエラは! 
 「××をしたい」という単純な欲求に対する答えは何かと自問自答を繰り返すと同時に、答えなんてないわい、これが答えだ、その衝動のままに行動だ! どうじゃい!! とでっかい声で言っているでっかい「映画」だ。
 考える前に、動いちまえ。やるんだったら、でかい事やれ。
 でっかいスクリーンで見るべし。