不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

五里霧中

 『ミスト』をDVDで見た。スティーヴン・キング原作。評判は聞いていたが、最後まで見て「うへー」と声を出してしまった。予想できないラストではないけど、描ききってしまうのが凄い。ここまでの絶望は、ちょっと最近の映画にはない。
 霧の中に「何か」がある。その「何か」の正体は不明だが、近づけば死が待っている。だから動けない。しかし動かなければ何もできない。苛立つ。さらに集団でいるから、様々な思考、不安、当惑が入り乱れる。外側の恐怖、内側の苛立ち。何とか突破した者に待っている絶望。
 「何か」がずっとわからないままのミステリアスな展開を予想していたが、意外と「何か」の姿かたちはすぐにわかった。その光景に、ちょっと吹き出してしまったものの、グロテスクさにも閉口した。そして、姿かたちがわかったところで、逆に恐怖は加速する。
 霧は、少しの隙間から音もなく近づいてくる。注意しても、追い払おうとしても無駄だ。いつの間にか周りを立ちこめ、気づけば我々は霧を吸いこんでいる。防ぎようのない危険、恐怖、そして絶望。
 何がどうしてこうなったのか。答えはない。答えがわかったところでどうしようもない。吸いこんでしまった「絶望」に、無力な者たちは打ちひしがれるしかない……それしかないのだろうか。
 人間の善性について考える。俺は人間の善性を信じているけど、集団になると暴走しがちだとも思う。恐怖にかられた人間は理性を停止させる。「自分で理解できる」ものだけを信じ、それだけを合唱する。だからこそ、「言葉で理解できる」宗教は集団に入り込みやすく、狂信的となる。この映画では、この部分を見事に描いていた。
 しかし、集団だからこそ善性が強く働く事がある事も、俺は知っている。一つのものに力を合わせて立ち向かい、大きな力を発揮できる事を。もしも、彼らが一歩ずれていたら、と思わずにはいられない。

ミスト [DVD]

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