不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

解ける謎、解けぬ愛


 容疑者Xの献身鑑賞。監督、西谷弘。原作、東野圭吾。出演、福山雅治柴咲コウ北村一輝松雪泰子堤真一渡辺いっけい真矢みき、ダンカン、長塚圭史益岡徹林泰文
 驚いた。かなりおもしろい映画だ。原作を読んでいなかったら、騙されていたと思う。まっとうなミステリー映画で、人間ドラマだった。
 不満はある。そもそも柴咲コウが演じた内海薫というドラマオリジナルのキャラクターがいらない。ドラマからの流れなのだから、いないと仕方ないし、それを全部見ていれば彼女がいる事が自然なのかもしれない。しかし、湯川学の「刑事ではなく友人として聞いてほしい」というセリフは、「大学の友人の事を、もう一人の大学の友人に話す」から意味があるし、重いのだ。それが、いくら信頼関係があるからといって、短い付き合いの女性では。それに、「私も痛みを云々」のセリフも、ちょっとな。しょうがないんだろうけどさ。
 チンピラな長塚圭史、いい人ダンカンなど脇役まで、かなりジャストな俳優陣。松雪泰子は元ホステスの色気を備えた雰囲気ある女性を好演。この人の為に、と思わせる。娘役の子もよかった。
 しかし白眉なのは堤真一。「ずんぐりした」「目の細い」、醜いと言える石神。本来なら温水洋一がぴったりだが、それでは映画として難なので、誰に演じさせるのか。その答えが堤真一だったわけだが、これが大正解。正解というか、それ以上。
 原作を踏まえつつ、新たな石神がそこにいた。無感情な表情、虚ろな目、猫背、ゆっくりとした動作、ぼそぼそと話すしゃべり方。醜くはないものの、疲れきった、やぼったい、あまり付き合いたくない人間だ。これを他の役者がやろうものなら、わざとらしくて鼻につきそうだが、石神そのもの。これが「演じる」という事か。
 堤真一の圧巻の演技によって、画面の重みが増し、原作になかった深さが映画に生まれた。天才の苦悩、友達と友達、純粋すぎる愛。ラストシーンでは、胸が震えた。
 余計な部分はあったし(登山シーンは特にいらない)、不満もあるが、完成度は高い。期待をしていなかったので、余計そう感じた。やるじゃない。
 それにしても、名演一つあるだけで、こんなに映画が深くなるんだなぁ。