不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

それにしても、腹が減る

 嵐山光三郎文人悪食』読了。続篇の『文人暴食』を随分前に姉に借りて読んでいるはずだが、おもしろかったけどここまで夢中にはならなかった。むさぼるように読んだ。
 一言でいえば「食から見る作家論・近代文学史」なのだが、メチャメチャ調べてある。『鳩よ!』に連載していたのだが、よく連載でできたもんだ。準備に5年かかったと後書きにあったけど、そりゃそうだよなぁ。
 食べる事は生きる事。作家にとって生きる事は書く事。だから食べる事=書く事、というのは何となくわかるが、こんなにリンクしているものかね。いやはや。
 文献だけでなく、編集者として直に触れた話を織り交ぜながら、切れ味鋭く論じていく。いちばん重要なのは、どの食い物も美味そうだった事。これがないかどうかで、内容の質が決まる。さすが嵐山光三郎
 どの作家も興味深かったが、中でも正岡子規は凄まじかった。餓鬼道にいるかの如き食欲と狂気。読んでいてゾッとするほど。正岡子規へのイメージが、かなり変わった。変わったというより、深くなった気がする。
 余談だが、俺は石川啄木が嫌いだ。小学校で国語の教科書で初めて作品を読んだ時、嫌だなぁと思って、どんな人物か知ってもっと嫌になった。この本のエピソードを読んでもやっぱり嫌。もはや嫌いだからこそ興味が沸いて来た。これが「イヤよイヤよも好きのうち」という事だろうか。

 料理は人を慰安する。
 素材を煮込んだり、蒸したり、焼いたり、いろいろといじっている混沌の時間は、狂気を押さえつけ、ひたすら内部に沈静させる力がある。料理に気持をこめることは他の欲望をしずめるための手段である。

文人悪食 (新潮文庫)

文人悪食 (新潮文庫)