不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

「きまぐれ」じゃなかった星新一

 最相葉月星新一 一〇〇一話をつくった人』読了。持ち運べないサイズだし、文体が合わなかったのか遅々と進まず、ようやく読み終えた。星家に残された膨大なメモ、資料を整理。さらに存命している多数の関係者に徹底取材。熱意が凄い。
 星新一の評伝・伝記なのだが、人物像よりも時代状況、時代背景、時代精神の流れが描かれていた。
 星新一といえば「ショート・ショート」「SF作家」というイメージだが、前半は父親・星一と彼が経営していた星製薬を中心とした政治・経済界の“渦”が描かれている。右翼の大物の名前もずらりと出てきて、とても星新一の話を読んでいる気にならない。
 新一が経営者をやめ、文筆業に入ったところから話は一気に“創作”に突入する。日本にSF小説というジャンルが生まれ、そして衰退していく。
 読んでいて、星新一という像があまり浮かび上がってこなかった。むしろ、星一だったり、SF小説史だったり、筒井康隆小松左京などの脇役の方が浮かんでいた。それは筆者に力がなかったわけではない。
 作品にもエッセイにも殆ど自分の感情を見せようとしなかった星新一。だとしたら、その「他人に何も見せようとしない星新一」こそ素顔なのである。人物像は伝わってきたし、生き生きともしていた。だけど全体の中から“浮かび上がってこない”のは当然なのかもしれない。
 印象に残っているのは、タモリとの交際。別荘に来て話をしたとか、かなり面白い。タモリのコメントがとてもいい。
 終章の〆の文が気に入らないが、面白かった。突き抜けたものを感じないのは、星新一という題材だからか。
 先輩のSさんが、星新一の『進化したサルたち』という作品が凄いから読めと言っていたが絶版だ。この本を機に復刊してくれないだろうか。

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人