不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ブレイク・スコット・ボール『スヌーピーがいたアメリカ』/スヌーピーがアメリカだった頃

 副題は「『ピーナッツ』で読みとく現代史」、今井亮一訳。版元は慶應義塾大学出版会で、大元は論文なので堅苦しい本なのだろうと予想しながら手に取ったら、存外読みやすく、作品をそれなりに知っているのもあってぐいぐいと読み進んだ。ずいぶん前から『ピーナッツ』関連本は読まなくなって(2019年に出たシュルツの分厚い評伝は買ってあるけど未読)、久しぶりに手にしてみたがメッチャおもしろかった、刺激的だし、一ファンとしても目からウロコ。ノンポリ・非政治的に読める『ピーナッツ』がいかに政治的で社会的で、そして宗教的か、そしてシュルツが己のメッセージを作品に込める時にどれだけ考え、バランスに気を配ったのか。それを分析する事はすなわち戦後アメリカの歴史と姿を見る事だった。環境問題やフェミニズムという現在の課題も興味深いが、やはりアメリカの根源的要素と言ってよい黒人とキリスト教の描写をめぐる章が滅法おもしろい。特に後者。『チャーリー・ブラウンのクリスマス』はそういう事だったのか、と。

 時代背景と作品と証言、ファンレターなどを丹念に読み解いていって、さすがに『ピーナッツ』の漫画を読んでいない人は難しいが、少しでも読んだ事がある人なら楽しめる事請け合い。残念ながら文中で言及する漫画の図版が掲載されていなかったが、訳者あとがきに《大して販売部数や利益が見込めない学術書に対しても高額な掲載料が必要だと判明したため》見送ったと正直に書かれていて、ならば仕方がないと受け入れるしかなかった。これを読んだ上で、もう一回コミックを読み直したい。もっとも私は、「きらめきを失い古くさくなった」頃からの『ピーナッツ』が一番好き。それは内容よりあの頃のシュルツにしか描けない震えた線の魅力によるところ大ではあるが。河出から出ている全集をやはり買うべきかな。