名前は知っていたし、近いところは通っていたはずなのにその作品にはほとんど通っていない石岡瑛子のノンフィクション、河尻亨一『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』(朝日新聞出版)を読むつもりになった理由はよく覚えていないが、東西ジャンルと多岐にわたる石岡の仕事を巧みにまとめて、そんな俺ですら一気に読んでしまうほどおもしろい。開催中の石岡瑛子展にも行きたいのだが、どうなるやら。インタビュー・取材はあんな人こんな人にもしており、作品の写真が多いのも嬉しい。ブックデザインもなかなかイカす、力作と言ってよいだろう。
しかしながら、いささか引っかかったのが、あくまで「仕事(作品)から見る石岡瑛子(私)」であって、プライベート(私)からの石岡瑛子が少なかった事である。たとえば恋愛事情は最後のパートナー以外については一、二行触れている程度。特にそこが読みたいわけではないが、やや不自然に読めてしまい、むしろそこに何かあるのではという気になってしまう。インタビューしたヴェルナー・ヘルツォークの「ミステリーはミステリーのままにしたほうがいい。ヒマラヤだって遠ければ美しいが近づけば人だらけ」という意見を著者が受け入れて決断した末のものかもしれないが、しかし評伝は遠く眺めるものではない、「あの美しい山には何があるのか」を知りたいのだ。だからこそ、もう少し「私」に近づいて欲しかった。
評伝、ノンフィクションにおいてどこまで描く≒暴くのかという問いかけは現在はさらに難題になっているのだろう。「覗き見やアウティングになるようなノンフィクションは死すべき」という意見もそのうち出てくるかもしれないが(もうあるのか?)、俺はそれでも実態に迫るようなノンフィクションが好きなんだよ。
- 作者:河尻 亨一
- 発売日: 2020/11/20
- メディア: 単行本
- 作者:小学館
- 発売日: 2021/01/28
- メディア: 単行本