不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

一〇月二〇日、スパイの妻

 十二時間くらい寝る、起きても頭痛なく、ただまだだるさあり。昼飯(またもや立ち食い寿司)を喰ったら仕事へ行くカミさんを見送り、ひとり吉祥寺プラザへ。いまだネット予約も座席指定もない場末の映画館である本館は大変好きだけどさすがに先は短いのではと心配していたが、いつ以来だったか今日行ってみるとロビーの壁は塗り替えられ(はず。ちょっとうろ覚えだが前は黒くなかった)、座席も新しくなっていたので(ようやくカップホルダーがついた!)、まだまだやる気十分と受け取り、俺もなるべくは来るようにしようと改めて思った。何せここはワンスクリーンしかないのに、コナンやピクサー作品などをたっぷり上映する一方で大林宣彦作品や『ハンターキラー』的なマイナー作品、ビートルズアレキサンダー・マックイーンのドキュメンタリーなども上映し、かつ大作の『キングスマン』や『007』もきっちりやるので侮れない映画館なのだ。今日は近郊で上映されていないかと調べたらここでやっていた『スパイの妻』を見る。

 賞をとったし評判はもちろん聞いていたが、予想や期待を上回った。たとえば序盤、夫婦の甘い場面であるにもかかわらず、明らかに奥の闇の方が不穏で、何だよこのショットはと思っているとそちらに二人が移動していって、実はそこは……とあとで判明する、といった脚本、俳優、撮影が完璧に絡み合いつつ、ずっと底知れぬ怖さがある異形の作品、脱帽。振り返ればストーリーはいたって普通なのだが、セリフ一つひとつややり取りがフックになっていたし、何より光と影の使い方が抜群な撮影がすばらしい。人物の外での横移動、室内での歪な動線なども不穏さを作り出していた。俳優はみな熱演で蒼井優はどうやったらあんな顔ができるのか。山里亮太はこの映画を見て帰ったら演じていた蒼井優がいるのだ、どう接するのだろう。わりと独特の日本語のセリフ回しだったと思うが、これは英語字幕でニュアンスが伝わるものなのかな。キメの一言なんかは難しそう。いやー、それにしてもえらいもん見た。ただラストだけはちょっとムニャっとしたけど。

 買おうと思っていたのに村上春樹インタビューの影響か、どこの本屋でも売り切れていて半ば諦めていたが、ここならまだ置いてあるかもとジュンク堂を覗いたらちゃんとあった今月の『文學界』を購入し、カミさんを待ちながら蓮實重彦×黒沢清×濱口竜介の鼎談を読む。途中でカミさんと合流し、焼き鳥屋で夕飯をとってから帰宅。家でカフェラテ飲みながら続きを。蓮實重彦は本当によく見ている、と俺がいまさら言うのもなんだけど。もう一回見に行こうか。

文學界 (2020年11月号)

文學界 (2020年11月号)

  • 発売日: 2020/10/07
  • メディア: 雑誌