どの本も「芥川賞受賞(候補)作だから」読んだのではなく、単純に読みたかった本、作家だったので読んだだけです。発表と発売の関係でこの時期に重なった。
上田岳弘『ニムロッド』(講談社)。時空間を飛び越えるこれまでの作品とは違って地に足ついているのだが、時空間を飛び越えるネット、国家間を飛び越える仮想通貨、そして何も飛び越えられない駄目飛行機を扱い……それらを作り出した人間たちの行き着く先を描く挑戦作、あくまでもいま現在の小説で、それを著者も自覚してなのか、登場人物が持っているiPhoneの種類を逐一書いたり、Wikipediaの存在をきっちり書いたりしている。仮想通貨を扱った小説というか、仮想通貨を言葉(日本語)にはめ込んだというか、仮想通貨を小説の形式にしたというか……わかったようなわからんような……いや、正確に言うとわからんのは仮想通貨と小説との関係であって、それ以外の小説の構造はいたってわかりやすい。人類の叡智の結集とも言えるネットと仮想通貨と何にも役に立たない駄目飛行機とこれから積み上げる自前の仮想通貨を対比して、仮想通貨の埋蔵量であれ生まれる子供の事であれ行き着く先がある程度見えてしまった結果、人間が抱える屈託や焦燥を描いていて、そこかしこに意味が散りばめられているような小説ではある。この著者ならもう少しアクロバットになってもよかったように思う。わかりにくいけどわかりやすい変な小説で、何でこの作品で芥川賞あげたのか、別に前の作品でもよかったのではと少し不思議だが、まぁ芥川賞っていつもそんな感じではあるか。

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