不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだ岩波新書

 軽部謙介『官僚たちのアベノミクス――異形の経済政策はいかに作られたか』(岩波新書アベノミクスという経済政策そのものの評価ではなく、何故この政策が作られたのか、また副題にあるように「異形」なのかを追ったノンフィクション。地味で、渋い。だが滅法おもしろい。登場人物は多いが意外と混乱しないし、経済を知らなくてもいける。ノンフィクションは金と時間がかかるわりに儲からないそうだが、本書もこれだけ取材して書いたのに新書一冊では費用対効果が悪そう。
 経済政策といっても、裏ではパワーゲーム・権力争い、暗闘が繰り広げられ、一筋縄ではいかない。野田政権の突然の解散直前から物価上昇率2%を定めるまでの中盤までが俄然盛り上がる分、後半はやや尻つぼみで、できればGPIFについてはもう少し踏み込んでほしかった。あれどうなんやねんと。気になったのはこの物価上昇2%の責任を政府が日銀に責任を押し付けようとする構図。そこはおまえらの責任ちゃうんかい……。それにしても、経済政策でこれだけ絡み合っている中に外交だの安全保障だのが入るのか。政治家って良くも悪くもタフでないとできんな。
 本編では押さえていたけど、終章では安倍・アベノミクス批判を繰り広げていて、まぁそれはいいんだけど、中で「小選挙区制で選挙に勝ったくせに」と批判していたのはどうかね。ここ20年の選挙全部その制度でやっているんだから、安倍政権だけを批判するのは些か筋違い。そもそも中選挙区制が金満政治の温床だからと小選挙区制を導入して、それには(著者の所属する時事通信は知らんが)メディアもこぞって賛成したはずだろう。せめてそれを踏まえて批判するべきでは。まぁ後書きにチロッと一行ばかし書いたところに、こんなに突っ込む事もないか……。本筋ではないし。フォローするわけではないけど、この本はおもしろかったです。

 清水徹ヴァレリー――知性と感性の相剋』(岩波新書ポール・ヴァレリーの評伝で、本人の著作を読む前にとりあえずの入門書として選んでみたのだが、人となりの中でもヴァレリーのロマンスに焦点が絞られており、彼を知っている人は興味深いのかもしれんが、知らん俺は逆に物足りないものになってしまっていた。んー、他のも読んでみるか。ヴァレリー本人のも読まんとな。
ヴァレリー――知性と感性の相剋 (岩波新書)

ヴァレリー――知性と感性の相剋 (岩波新書)