不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

映画評論でなく映画エッセイ

 高崎俊夫『祝祭の日々: 私の映画アトランダム』(国書刊行会。最近の映画エッセイ本の中でも出色のおもしろさ(といっても最近そんなに映画エッセイ本を読んでいないんだけど)。不勉強で「俺が知っている(持っている)、あの本もこの本も編集した人なのか!」と驚きながら読み進めたし、ジャンルを横断する博覧強記でありながら、編集者ならではの細部に行き届いた神経によって内容が厚く、骨太になっている。読み終わった後、古本屋で著者が編集した花田清輝映画論集『ものみな映画で終わる』を見つけたのですぐさま買ってしまった。
 著者自らが言うように内容はやや「後ろ向き」(懐古的)ではあるのだが自覚しているので「昔はよかった」とはなっておらず、あくまで立ち位置は現在にあるのがいい。何より出てくる映画や書物が魅力的。元はWeb連載で一篇ずつの話だが、先ほど出てきた人物が次で繋がったりする構成がまことに巧妙。俺は知らなかったのだが、金井美恵子『小春日和』がテレビドラマ化された事があって、そのさい金井が「監督は大林宜彦でどうかなんて言われたけど、絶対ダメ、許可しない。マキノ雅弘にやってほしいんだけど、結局前田陽一に決まった」と言ったそうな。らしいなぁ。蓮實重彦×スーザン・ソンダグ対談で蓮實がやらかした話など、ちょっと笑ってしまった。個人的ハイライトは「映画批評家としての淀川長治」。淀川さんの映画への愛と本気、それを引き出した著者に拍手を送りたくなるほど。
 何か、妙に楽しんでしまったな。とりあえず出てくる本や映画を手に取りたい。