不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ジャコメッティ 最後の肖像/先生、〆切です


 矢内原伊作ジャコメッティ』にもあるように(ジェイムズ・ロード『ジャコメッティの肖像』は未読)、同じ顔を何度も描き直し描き続ける芸術家にとっての「完成」とはどこにあるのか、という本質的な問いかけにもかかわらず、あっけらかんと外してくる肩透かしな結末が、実話であるが故にカタルシスを生まないと同時に、つい笑ってしまうようなチャーミングさになっていて、それは世捨て人ではなく、食事を楽しみ、恋も性欲も我慢せず、悲しむし悩みもするし、さらりと金の話だってする、それが人生だろとにやりと楽しんでいるジャコメッティそのものに、見えてしまった。
 巧みにジャコメッティを演じたジェフリー・ラッシュはもちろんの事だが、何よりもジャコメッティに「凶悪犯の顔だ」「刑務所か精神病院行きだな。そこで会おう」などと言われても「光栄です」とシレッと返し、カメラにまっすぐ捉えられたショットでジャコメッティだけでなく観客すらも「なるほど」と、何がなるほどなのかわからないがとにかく納得させるような説得力のある顔の持ち主アーミー・ハマーがよかった。
 こう言ってはなんだが、別段どうという事のない映画なのだが、何故かずっと見ていたい気分になった。行きつけのカフェで、注文せずともテーブルにいつものものが運ばれて、チャカチャカ喰いながら赤ワインを飲み(絶妙のタイミングでお代わりが来る)、食後もさらっとカプチーノが二杯来て、一杯は相手(ロード/ハマー)のものかと思いきや二杯とも自分が一息で飲んで、テーブルに金を置いて「さあ、行こう」と店を出る、墓場を歩きながらロードにピカソの悪口を言う……そんな彼らの一連のやり取りなど、もっと見ていたかった。ただ、矢内原パートだけ、とってつけたかのように浮いていたのが気になったけれど(彼との関係などは知っているが)。
 それにしても、こんなタイミングでフランス・ギャルの曲を聞くとは思わなかったな。