不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ジャッキー ファーストレディー 最後の使命/私は何を言ったのかしら


 伝記ではなく伝奇の方がフィットするような、曰く付きの白き館に住んで取り憑かれた女性の顔を執拗に追うゴシックホラー映画である。夫の頭蓋骨が粉砕された瞬間、彼女自身の魂も粉砕された。偉人になるはずの夫のそばにいる自分は何者でもなく、しかし権力システムに組み込まれたが故に個をないがしろにされる矛盾と皮肉が彼女の表裏にへばりつき、白き館の主を交代させる儀式だけは進めなければならない。その時彼女は何を思い、何を言ったのか、なんて事は覚えておらず、だから記者に書かせた自分の言葉を偏執的にチェックしようとするのも当然だろう。
 カメラのオン/オフの表情の違いや記事への配慮、公の場に出る際に必ず「全世界が見ている」事を自らにも他人にも強調し、人工的な笑みの歪さを持つ彼女の姿は、テレポリティクスの申し子であるJFKの妻であるからこそのものだろう。その点を押さえているのはさすが『NO』の監督である。
 『ブラック・スワン』よりいいと言われているナタリー・ポートマンの演技は、熱演だけど私は逆のように思えて、狂気ではないけど正気でもないジャッキーの混乱と混濁が薄く思えて、彼女の演技の限界はここかなとすら思えてしまった。それでもキャリアハイなのは確かだが。
 神父への告白、二つの埋葬によって鎮魂をして惨劇を終わらせる、というのもゴシックホラーのようだが、歴史を知る我々は、この後はボビーも暗殺され、オナシスと再婚する事を知っているぶん、黄昏の海岸がより一層儚く見えてしまった。