不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

パクリパクラレヤリヤラレ

 K・ラウスティアラ/C・スプリグマン『パクリ経済――コピーはイノベーションを刺激する』(みすず書房山形浩生/森本正史訳)。本屋でパラパラ読んだらおもしろそうだったので、珍しく経済本を買ってみたが、これがおもしろい。副題がそのものズバリになるわけだが、とかく嫌われがちなパクリ=コピーが、実はイノベーションを刺激しているのだという事を、ファッション、料理、コメディ、アメフト、金融、フォントなどの分野で事例を交えながら分析・論考し、〆としていまコピーがもっとも問題になっているであろう音楽業界を取り上げている。
 先に挙げた分野でコピーが多発したとしても(というか、現在進行形で多発している)、創造性は失われるどころか刺激されて促進される、ファッションで言うなら『プラダを着た悪魔』の「ブルーのセーター」はそれを言ったわけである。料理なんて最たるもので、レシピや店のコンセプトなどはコピーされていくものだ。だが、物質はコピーされたとしても、一番大事なのは各個人の「体験」なのだ。コピーを撲滅できないのだから、どう付き合うかという思考の転換が必要、というのも別に斬新な結論ではないんだけど大事。また、分野そのものと、それを扱う業界とは切っても切れないものだとしても、別のものとして考えねばならない事を見落としがちで、それがいまの音楽業界の問題の根っこにあるのではないか。出版もそうかも。
 ところで、本書にはスタンダップコメディもコピー例として挙げられているのだが、そこから落語(特に古典落語)を思い浮かべた。演劇は同じ脚本を使用するだけでコピーではないけど、まさに落語はコピーから創造していくものではないか……と思っていたら、解題で山田奨治氏が同じ指摘をしていた。

パクリ経済――コピーはイノベーションを刺激する

パクリ経済――コピーはイノベーションを刺激する