不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだ日本の小説

 いま新作が楽しみで、出たら必ず買う作家といえばこの二人。
 上田岳弘『異郷の友人』(新潮社)。これまでの前世全ての記憶を持った男が主人公で、現世では同時代の別の二人の意識も同時に認識していて、一人はオーストラリアのハッカー、もう一人は淡路島のある新興宗教の教祖で、しかも教祖は信者三万人の意識を把握しているので、主人公が認識している意識は途方もなく……という荒唐無稽と言える物語が、何故か妙にスリリングに展開していく。
 物理的に近づいていく三人それぞれの過去・歴史(何せそれは人類起源からだ)、記憶、意識がどんどん混濁混乱混沌としていき、帰結する場所があそこだったのは意表をついたが、肝心の着地はわりと安易・安直だった気もする。個人的には前作『私の恋人』の方が好きだけど(本書で芥川賞を受賞していたら、おいおいと思った事だろう)、某お笑いコンビの有名ネタを、正面から大見得切って文学作品に仕立て上げた剛腕はすごいし異端で、著者の現在の集大成なのは確かかも。上田岳弘は磯崎健一郎に似ているなと思っていたが、『異郷の友人』で一気に違う場所へジャンプした感がある(どっちがいい/悪いではなくね)。

異郷の友人

異郷の友人

 青木淳悟『学校の近くの家』(新潮社)。このタイトル、装丁、題材から想像されるような、ある種の幼さ、純真さとは遠く離れ、親子や友人関係からも距離を取り、周辺情報をもとに心の淵をなぞりながら中を覗いていく、冷たさと「あるある」が同居している稀有な小説。何がすごいって、全部で七つの短篇が収録されているのだが、その七つ全てが「同じ話」なのだ。リードシングルにそれのリミックスがいくつか併録されているといえばイメージしやすいかと思う。「わかりやすい」んだけど、わかりやすいが故に手ごたえがおもしろおかしい。まぁ変な小説ですよ、二つとも。
学校の近くの家

学校の近くの家