不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

震災を扱った本2冊

 橋本治『初夏の色』(新潮社)。「震災をどこかで経験した日本人」を描いた短篇集。橋本治は贔屓の作家なのもあるけど、震災を扱ったこういう小説を読みたかった。ただ、「こういう」とはどんなものかをうまく言えないのだが、冷たさと温かさ、遠くと近く、両方の矛盾した感覚を得られる。全てがいいとは言わないが、戦後史ものと同じスタンスで書けるのだから、やはり凄いものだ。「枝豆」と題する小説だけは、震災とはあまり関係なく、「草食系男子」についてのものなのだが、これが一風変わっていて結構おもしろかった。

初夏の色

初夏の色

 金井美恵子『目白雑録5 小さいもの、大きいこと』(朝日新聞出版)。奇しくも連載時期が震災の二年くらいと重なっていて、扱っているのは震災や原発だけではないが、言うならば「震災後」がテーマと言える。いつにも増して思考と文体がうねりにうねっているので、俺は一読では咀嚼しきれなかった。このシリーズでは初めて註があるのも、本文だけでは補えなかったからだろうか。
目白雑録5 小さいもの、大きいこと

目白雑録5 小さいもの、大きいこと