不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

わたしはここにいる

 ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』(駒月雅子訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)。「『週刊文春』ミステリーベスト10」や「このミステリーがすごい!」で取り上げられ話題になったが、厳密に言えば本書は決してミステリーではない。だが、そんなカテゴライズはどうでもよい、孤高の傑作短編集。
 五人の女性警察官が登場するが、数篇毎に一人が主役となっており、繋がりは薄い。共通している事といえば、彼女たちがボロボロになりながら戦っている事である。時に傷を負い、時に心疲れ、時にふるえ、時に笑い、警察官として、そして女性として現実と戦っているのだ。

 シャワーの下に立つ。両手を壁にあてて、シャワーに向かって体をそらし、背伸びしながら全身の筋肉を伸ばす。
 オーケイ、と自分に言う。毎晩、自分にオーケイと言う。

 シャワーで涙をごまかして戦う女性たちの姿が痛々しくも、美しい。
 大きな声ではない、むしろ小さな声で物語られている。消えてしまいそうな声を、耳を、目を凝らしてとらえていくと、文章から、行間から、言葉から、彼女たちの心の熱や命の手触りが伝わってくる。
 神を、他者を、己を、世界を、憎みながら愛し、傷と矛盾を抱えて生きていくしかない。世界は残酷だ。されど、どこにでも希望はある。昨日にも、今日にも、明日にも、その先にも。そう信じて生きていくしかない。
 そんな事がこの短篇集には刻まれている。読んでいて楽しくはない。だけど読んでよかったなと思える小説だった。