不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

Manos De Piedra

 クリスチャン・シューディージェイロベルト・デュラン "石の拳" 一代記』(白夜書房、杉浦大介訳)。デュランの事は名前と、一通りの業績しか知らなかったのだが、気になって読んでみた。喜怒哀楽の感情をそのまま反映させたようなジェットコースター人生。漫画かよ。
 KOしまくり負ける時も派手なボクシングスタイルもさることながら、貧困からの脱却、豪快な生活、不屈の精神、謎を残す試合、寛容な心――本当に魅力的な男だ。宵越しの金は持たないとばかりに、使いまくり周囲にも大盤振る舞いする様を見て、少しは後先考えろよと呆れはするが、そんな男でなければ4階級制覇の偉業は成し遂げられなかった事だろう。パナマでの極貧生活を見てみると、安易に「日本人にはハングリー精神がない」と言われる事もうなづいてしまいそうになる。キャリア後半は(当然ながら)落ち目になったといえ、51歳まで現役だったのだからすごい。総試合数119、勝ちは103、KOは70と戦績はすさまじい。
 ドラマも試合も描写は結構たんたんとしていたので盛り上がりに欠けるが、本人を始め家族友人知人関係者に入念な取材を行い、資料も豊富に読み込んでおり、物事を一面的に見ない冷静な視点と筆致なのはよかった。写真は少なめだったが、キーポイントの写真は掲載されていたのでうれしい。
 と、それなりに満足したわけだが、読後にwikiを読んで、デュランが船木誠勝総合格闘技戦を行っていた事を知った。この評伝には書かれていなかったはず(読み落としていたとしても、記述は短いだろう)。この後に読んだ(途中でやめたけど)アリの評伝には猪木との異種格闘技戦について、むしろ恥部のようにあとがきに少しだけ書かれていた。あのさー、アンタらがどう思っているかは知らんが、そういうところもキッチリ取材して書かないと、本当にその選手を描いた事にならんだろうよ。以前読んだ林壮一も、K-1を批判的に書いていたと記憶している。そりゃーボクシングは格闘技の中でもよくできた上等なスポーツだとは思いますが、ちと上から見すぎじゃないですかねぇ。

ロベルト・デュラン

ロベルト・デュラン "石の拳" 一代記